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—— Moonlight scandal(43)
「え……?」
動きを止めて、思わず首を竦めた。 耳を澄まして辺りの様子をうかがう。
プールのフェンスの向こう側は木々で囲まれていて、辺りは暗闇が広がっている。 誰かがいる気配は感じられないけど……。
「あ……」
暗闇のずっと向こうの方で、一瞬チラチラと何かが光ったのが見えた。
光は直ぐに見えなくなって、しばらくするとまた光る。
今度は 直ぐには消えずに、揺らめきながら動いていて、此方の方へ近付いてくるように見えた。
時々、違う方向に光の帯が伸びて、暗闇に残像を描く。
—— あれは懐中電灯の光だ。
「直くん、プールの中に入って」
透さんに小声で言われて、漸く今のヤバい状況に緊張で身体が強張る。
なるべく音を立てないように、ゆっくりと、水の中へ入った。
身体を支える為にプールサイドに付いた手に力が入って腕がプルプルと震える。
辺りが嘘のように静かだ。
外の道を通過する車も、こんな時に限って一台も来ない。
時折緩く吹いていた風が木々の葉を揺らす音も、今は聞こえない。
身を隠す為に飛び込み台の方へと、ゆっくり移動して行く間、微かに立ててしまう水音にすら、心臓がドキンと跳ねた。
息を潜めて、ギュッと目を瞑り、手は知らないうちに透さんにしがみついていた。
そっと俺の肩に回された透さんの腕に力が入って、しっかりと抱き寄せられた。
耳を澄ませば、砂利道を踏む足音が、ゆっくりと近付いてくる。
—— ヤバい! 絶対絶命って、こういう時に使う言葉なんじゃねーの?
『夜の学校のプールで、全裸で抱き合っていた男二人逮捕!』
—— あぁ、明日の朝刊の見出しは、やっぱ、こっちに決まりだな。 …… なんて、冗談で済めば良いんだけど!
その時、懐中電灯の光が、入り口の方から反対側のフェンスを照らした。
—— もう近くまで来てる!
砂利を踏みしめる音も、すぐ近くで聞こえている。
—— マジでヤバい! どっ、どうしたら!?
ドキドキしながら見上げれば、透さんは、俺の目を見つめながら、一度だけ安心させるように頷いて、唇に人差し指をあてる。
静かにしてろって事だろうけど、このままじゃ見つかってしまいそうで、俺は気が気でなかった。
砂利の音が止まり、ガシャンと、入り口の柵の音がする。
—— な、中に入ってきた?
懐中電灯の光が、忙しなくプールの上を動いて、心臓が有り得ないくらいにドキドキする。
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