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 —— Moonlight scandal(55)

 二人でカレーを腹いっぱいになるまで食べて、一緒に後片付けをする。  そんな当たり前の事が、今日はすごく幸せに感じる。 「透さん、俺、なんか今日は、喉がすげえ渇くんだけど、ビール呑んでもいい?」  プールで泳いだせいなのか、それともバスルームで激しい運動したせいなのか? 喉が渇いてしょうがない。  別に水でもいいんだけどさ、なんとなくビールが飲みたくて。 「あんなにカレー食べたのに、ビールがまだ入るの?」  綺麗に拭きあげた食器を棚に片付けながら、透さんは少し呆れた顔で俺の方に振り向いた。 「へーき、へーき」  俺がそう言うと、透さんは苦笑する。 「じゃあ、350mlの1本だけだよ、直くんは一応未成年なんだからね」  そう言って、俺の額を人差し指で、ピンと突く。 「はーい、分かってます!」  俺は、ふざけて敬礼をして、冷蔵庫を開けようとして、「あ、透さんも飲む?」と、透さんの方へ首だけで振り返って訊いてみた。 「ん~、俺は今日はいいよ。お腹いっぱいだし」  と、言ったところで、透さんの携帯が鳴った。 『ごめん』って言うように、手を合わせてから、携帯を手にする透さん。  —— また仕事かなぁ。  透さんの仕事は、夜遅くても、急ぎの時は電話がかかってくるし。  本当に大変だな、って思いながら、眺めていると、透さんは、何か仕事の話をしながら、リビングに置いてあったノートパソコンを開けていた。  —— やっぱ仕事かー。 まぁいいや、俺はゆっくりビールでも呑みながら待ってよっと。  気を取り直して冷蔵庫を開けて、ドアポケットに並んでる缶ビールを取ろうとして、綺麗なレモン色のジュースの瓶に、目がいく。  —— なんだろこれ、レモンのジュース? 綺麗な色だな。 「透さん、これ飲んでも……」  —— いい?…… って言いかけて、振り向くと、 透さんはリビングの床に座り込んで、ローテーブルに置いたパソコン画面を見ながら、電話の真っ最中。  —— 忙しそう……。  ジュースは2本あって、一本の蓋は開封してあって、少し減ってる気がするし、量も少ないし、これ、このまま口飲みしてもいいよね。 と、勝手に思いながら、冷蔵庫からその瓶を取り出して、透さんが仕事をしている近くのソファーに腰掛けた。  透さんは、パソコンの画面と、スケジュール帳を交互に確認しながら、電話の相手と話していて、俺がソファーに座ったことにも気が付いていないみたいで……。  ちょっと前までの俺なら、きっと……、早く電話、終わんないかな。 とか思って、拗ねてたかもしれないけど……。  今の俺は、ゆったりとした気持ちで、見守っていられる。…… うん。  もしも、この後、家で仕事をしないといけなくなったら…、透さんに、コーヒーでも淹れてあげよう。  そんな事を考えながらジュースの蓋を開けると、仄かにレモンの爽やかな香りがする。  直接、瓶に口をつけて、コクリと喉に流し込んだ。 「…… ん?!」  —— これっ、甘いけど……、酒?! …… しかもキツっ!?  喉が渇いてて、最初は気が付かなかったけど、飲み込んだそれは、確かに酒で、とんでもなくキツくて、ちょっと喉が熱い。  —— でも…… 美味しいかも。 これ……、甘いし……。 もうちょっとだけ……。 と、思いながら、恐る恐る舐めるように飲んでみた。

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