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 —— Moonlight scandal(56)

「…… 直くん?」  仕事の電話が、終わったらしい透さんが、何故か驚いた顔でこっちを見てる。 「—— とぉるさん、しごとのでんわ、おわったのぉ?」 「ちょ…… 直くん、何飲んでんの?」  言いながら透さんが隣に腰掛けて、俺が手にしている瓶を取り上げてしまう。 「…… あー、」  不意に取り上げられたから、思わず不満の声を漏らしてしまった。 「直くん、これお酒だよ? 分かってる?」 「—— ん? やだなー、いくらおれでも、わかってるよー」  最初はジュースだと思ったんだけどね。 「大丈夫? これ、リモンチェッロって言ってね、アルコール度数30で強いんだよ。 こんなに飲んじゃって」  透さんは、瓶を上に上げて、残ってるレモン色の液体を振って見せる。 「あー、さいしょね、ジュースだとおもったからね」  透さんの首に腕をまわして抱きつくと、ボディソープの香りがする。  —— 透さん、いい匂い……。 「…… そう。 でもアルコールだと分かってからも、飲んだんだね?」 「んー、あまくて、おいしかったからー。 でも酔ってないよ?」  だって、意識はしっかりしてるもん。 「そう、直くんは、悪い子だね」  そう言いながら、透さんが、俺の背中と膝裏に,、腕を回して、抱きかかえようとしてるのが分かった。 「とおるさん?」 「何?」 「ベッドにいくの?」 「そうだよ、もう寝た方がいいから」 「…… やだ、ここがいい」 「え?」 「たまには、ソファーでしたい」 「…… 直くん?」  透さん、なんでそんなに驚いてんのかなぁー。 なんて思いながら、オレは、透さんの首に腕を絡めて、その唇を塞ぐ。 「…… んッ」  少し透さんが、身じろぐのを感じて、唇を離して、その表情を窺った。  透さん、頬がほんのり赤く染まってて、いつの間に酒呑んだんだろう……。 なんて考えていた。 「ねー、とおるさん。 オレさ……」  漆黒の瞳に、俺が映ってる。  透さんの、この優しい眼差しが好きで、 「…… 何?」  透さんの、この優しい声が好き。 「今は、まだ、なんにもできないガキだけどー」  ずっと一緒に居たいから、俺は俺の決心を伝えたい。 「もっといっぱい、べんきょーしてさー」  透さんは、うん、うん、と頷きながら、俺の話をちゃんと聞いてくれている。 「んで、そつぎょーして、しゅーしょくして、ちゃんと自立できたらさー」  もっと一杯、透さんを幸せにしたいから。 「オレの家族にも、しょーかいするね」  この世で一番大切にしたい人だよって。 「そしたら、一緒にくらそーね」 「…… 直くん……」  透さんが、少し照笑いみたいに微笑んでて、なんか可愛い。 「ありがとう」  そう言うと、俺の頬を優しく掌で包んで、軽く触れるだけのキスをくれる。  俺は、もっともっと透さんと繋がりたくなって、もっと深いキスが欲しくて……。  —— 透さんを……、  ソファーに押し倒した。

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