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—— 幸せのいろどり(6)
「こんばんは」
先に声をかけたのは、俺の方だった。
「こ……、こんばんは!」
そう応えてくれた彼は、少し驚いた表情で緊張気味だったけど、すぐにあの人なつっこい笑顔に変わる。
お互いの名前を教え合い、ただの店員と客から、少しずつ距離を埋めていった。
***
「いやー、俺、彼女とかいないし」
クリスマスイブなのにデートの予定はなかったのか? と言う俺の質問に、直くんは当たり前のようにそう応えた。
『彼女がいない』と言うのは、特定の付き合っている子がいないと言うことなんだろうか。
それとも、この間見かけた女の子達とも遊んでいないと言うことなのか。
「そうなの? モテそうなのに?」
「そんな、モテないですよ」
即答する直くんに、思わず苦笑してしまう。 こういう質問にも、きっと慣れているんだろうな。
「…… そういえば……、あの……、いつも一緒に店にくる女の人、最近見かけないですね?」
何故か言い難そうに、少しもじもじしながら、静香のことを訊いてきた直くんを不思議に思って、
—— ああ、そうか…… と、思う。
彼は、静香の事を好きだったのかもしれない。
「…… 気になる? 彼女の事」
「いえ、そんなわけじゃ……」
そう言って、俯いてしまった彼の顔を覗きこむと、照れているのか、真っ赤な顔をしている。
—— やっぱりそうか……。 と、確信して、本当の事を言った方が親切なのか、少し迷って夜空を見上げた。
「あの子ね、こないだ結婚して、相手の人の仕事の関係でアメリカに行ったんだよ」
隠していても仕方のない事だし、正直にそう伝えると、彼の大きな瞳が、よりいっそう大きく見開かれる。
静香の事を、どれくらい好きだったのかは、解らないけど、結婚の話を聞いて、驚いてしまうくらいには、気になっていたのかもしれない。
なのに、「寂しくないですか?」と、俺の心配をしている。
「まぁ……、寂しいと言えば寂しいけどね。 あの子が幸せになるなら、それが一番だと思ってるよ」
静香は、幸せになる為に結婚した。
だから、本当にそうなるように、俺は願うだけだけど……。
静香が結婚したことで、直くんの恋は、告白することなく終わったのだと、俺は、勝手にそう思って、勝手に同情していたのかもしれない。
—— 一緒に食べませんかと、ケーキを差し出した直くんを、このまま独りで帰したくなくて……。
自分のマンションに誘ったのは、それ以外に意味は、本当になかったんだ。
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