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—— 幸せのいろどり(16)
バスルームに響くシャワーの音。
白く立ち込めていく湯気。
余韻が残る身体を、安心しきったように俺に預けている直くんを抱きしめながら、排水溝へ消えていく名残を、ただ眺めていた。
罪も、後悔も、全て流れて、忘れる事が出来るのなら、どんなに楽だろう。
直くんの身体を横抱きにした体勢で、バスルームの床に座り込み、髪を洗う頃には、直くんは完全に眠りに落ちてしまっていた。
すっかり寝入って重みの増した身体を拭いて、髪を乾かして、ベッドに運んだ頃には、時計の針はもうすぐ午前3時を指そうとしていた。
すやすやと規則正しい寝息を立てて眠っている直くんの寝顔を、俺はベッドに腰掛けて眺めていた。
朝、目覚めたら、直くんは今夜の事をどう思うだろう。 そして、俺の事をどう思っているんだろう。
俺は…… 直くんの事を、どうしたいんだろう。
手を伸ばして、直くんの頬に指先で触れてみる。
しっとりとした手触りの弾力のある頬に指を滑らせて、形のよい唇をなぞれば、直くんの身体が僅かに身じろいだ。 起こしてしまったか、と思って、咄嗟に手を離すと、また、安心したように規則正しい寝息が聞こえてくる。
最初は、俺の勝手な興味本位で、つい手を出してしまったけれど、肌を合わせて、もっと深いところをへ手を伸ばして、触れているうちに、俺は……。 確かに、愛おしさを感じていた。
それが、『今』だけのものなのか。 それとも、『これからずっと』続くものなのか。 さっきから考えているのに、答えは出せずにいた。
いや、答えは、とっくに出ているのかもしれない。 でも、身体だけの関係ではなく、この線を越えてしまって、自分の熱を止められなくなるのが怖い。
しかも、俺たちは男同士で。 二人で『未来』を歩むことなど、有り得ないのだから。
熱くなる一歩手前の温度で、踏みとどまれば良いんじゃないか…… と、またずるい事を考えている。
だけどそれでは、ただの、所謂セフレという関係になってしまうんじゃないんだろうか。 それは、俺が一番嫌っている事じゃなかったのか。
直くんは、どう思うだろう。 また次も、あると思ってくれているだろうか。 それとも、今夜の事は、ただ流されてしまっただけの過ちで、もう忘れたいと思うのだろうか。
多分、直くんは、また俺が誘えば、流されるのかもしれない。 だから……。
大人の俺が、引き際を決めなくてはいけない、なんて考えていた。
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