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 ―― 幸せのいろどり(18)

 朝の早過ぎる時間は、道も空いていて、あっという間に会社に着いてしまう。  逃げるようにして、マンションを出てきてしまったけれど……。  直くんは、まだ眠っているんだろうか。 起きた時に俺がいない事に気付いたら、驚くだろうか。 寝ぼけ眼で、あのメモを見つけて…… それから……。  自分の考えかけたことに、思わず苦笑してしまう。 この先のことも、考えることも全部、直くんに押し付けてしまったのに。 連絡をくれるだろうか、なんて思う事自体、あまりにも自分勝手過ぎる。  もしも……、直くんが連絡をくれなかったら……、もう、これきりというだけの話だ。 昨夜の事は過ちで、もう忘れたいと思ったと言う事だ。  そうなる事が、お互いにとっては一番良い決断になるんだろう。 直くんが、その決断を選べばいいと思ってる。 俺はそう思ってるんだと自分に言い聞かせた……。  **  時間が早すぎて、まだ誰も出社していない社内は静か過ぎて、自分の歩く靴音だけが、寂しくこだまする。  自分のデスクで、持ってきた新聞を広げて記事に目を通そうとするけれど、字を追っているだけで、何も頭に入ってこなかった。  自販機で買った、コーヒーの紙コップを口元に付けたまま息を吐く。 暖かい湯気が、目の前に白く広がって消えていく。  昨夜、熱くなってしまった自分の想いも、きっとすぐに冷めて消えていくだろう。  ―― そう思っているのに……。  直くんが、連絡をくれなかったら、もう、本当に逢う事はなくなる。 そう考えると胸の奥が酷く痛む。 自分で直くんに決断を委ねたくせに。  それなのに心の何処かで、直くんは連絡をくれるんじゃないか…… なんて、また考えてしまう。  直くんが昨夜の快楽を忘れる事ができなくて、俺と逢いたいと思ってくれるんじゃないかって……。  俺は、何て自分勝手で、ずるい大人なんだと自嘲した。  直くんが連絡をしてこない決断をする事が一番良いと分かっているじゃないか。  邪な考えを振り切る為に頭を横に何度も振った。  就業開始時刻が近づくにつれ、徐々にいつもの慌ただしい日常が始まる。 その中に溶け込んでいれば、昨夜の甘い情事も自分勝手な欲望も、忘れる事ができるだろうと思っていた。  ***  仕事を終えて、駐車場へ向かう途中、胸ポケットに入れていた携帯が振動して、思わず身体が跳ねた。  ―― 直くん?!  期待などしないつもりでいたのに、条件反射のようにそれを取り出して確認もせずに、通話ボタンを押した。  実際、忘れようと努力していたつもりでも、今日一日頭の中から直くんの顔が消えることは無かった。

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