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 ―― 幸せのいろどり(30)

「直くん、身体は大丈夫?」 「え? …… あ、大丈夫だよ」  ずっとこのまま一緒に過ごしたいと思うほどに、時間の経つのが早く感じる。  翌日30日の夕方、直くんを送っていく車の中、少し疲れた様子なのが、気がかりだった。 「ごめんね。ちょっと無理させちゃったよね」 「ううん、大丈夫。 俺、若いから」  そう言って、笑ってくれる直くんに、俺は苦笑いでしか返せない。  何処にも出かけることもなく、この二泊の間、殆どの時間をベッドで過ごしたような気がして……。  直くんの方が身体に負担がかかってるのを、分かっていながら、無理をさせてしまった張本人は俺なんだから。 「ホントにごめんね」と、謝るしかない。  それなのに、直くんは少しも気にしていない様子で満面の笑みで応えてくれる。 「謝んないで。 俺、すっごい楽しかったし」  直くんの『楽しかった』と言う言葉に、ちょっと笑ってしまう。 「楽しかった? 気持ちよかったの間違いじゃなくて?」  冗談のつもりで言ったのに、「…… え…… えーと、」と、真面目に受け止めて口ごもっている。  そんな直くんが可笑しくって、思わず笑い声をあげてしまう。 「そ、そんなに可笑しかったですか?」  信号待ちで良かった。 一度笑ってしまうと、止まらなくて、目に涙が溜まっていたから。 「透さんて、普段は落ち着いた感じなのに、偶に笑いが止まらなくなるよね」  笑いが止まらなくなった俺の顔を見ながら、直くんはそう言って、にっこりと微笑む。 「え? …… そうかな?」  ―― それは、きっと、直くんと一緒にいるのが楽しいから。 「うん、そうだよ。……ね、今度逢う時も、泊まっていい?」 「勿論。 着替えを持って来るんでしょ?」  今度はちゃんと、お互いの携帯の番号もアドレスも交換したから、いつでも連絡できる。 「今度、いつ逢えるかな」 「明日から、お互い実家に帰ってるし、三が日が過ぎたくらいかな。 また連絡するよ」 『今度』と言ってくれる事が、こんなに嬉しい。  例え、直くんにとっては、ただの遊びだとしても、それでもいい。   この小さな幸せが、ずっと続くなんて思っていないから。  直くんが俺に飽きるまで、このまま、いつか醒める夢を見ていてもいいと思っていた。  そんな甘い夢なんて、すぐに終わってしまうことも忘れていたのかもしれない。 「じゃ、よいお年を」  バイバイと手を振って、マンションのエントランスに消えていく後姿を見送って、アクセルをゆっくりと踏み込む。  幸せな時間が過ぎるのは、早い。  明日の予定を思い出して、独り、運転しながら溜め息を吐いていた。

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