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—— 幸せのいろどり(33)
***
「私の我侭で部屋まで送ってもらってしまって、本当にすみませんでした。 ありがとうございます」
部屋の前で立ち止まり、美絵さんはそう言って、頭を下げる。
「いえ、大丈夫ですよ。 今日は疲れたでしょう、ゆっくり休んでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
美絵さんは、もう一度丁寧にそう言って、手に持ったカードキーで解錠し、ドアが少し開いた状態で、思い出したように俺を振り返る。
「明日もまたパーティでお会いできるんですよね?」
そう…… 明日、パーティ好きの継母の提案で、知り合いを呼んでホテルでパーティをする予定だと言ってた事を思い出して、また気が重くなってしまう。
「…… 俺は、行くかどうか、分からないですけど……」
出来れば…… 行きたくなかった。 何か理由をつけて、断ろうと考えていたんだけど。
「…… 透さんが来てくださらなかったら、私、とても心細いです……」
少し俯き加減にそう言われてしまうと…… 考えてみれば、確かに心細いかもしれない。
知り合いを呼ぶだけの、そんなに形式ばったパーティではないとは思うけれど、殆どが仕事繋がりの知り合いで、年配の人が多い中に、独りでいるのはつまらないし、心細いんだろう。
—— その気持ちは俺にも分かる……。 と、ふと、昔のことを思い出していた。
だから、つい……、言ってしまった。
「…… 俺も、なるべく行けるようにしますから……」
「――本当ですか? ああ、良かった。 透さんが一緒に居てくださったら、心強いです」
嬉しそうに、そう言われてしまっては、明日のパーティは顔だけでも出さないとまずいなと、思う。
自分で言ってしまった事だけど、少しだけ後悔していた。
美絵さんの事は、嫌いではないけれど、特別な感情もなくて、知り合いのお嬢さんという程度で。 だけど、ああいうパーティで、話し相手もいない時の気持ちは、俺はよく知っている。
少しの時間だけでも、話し相手になってあげれば、美絵さんも出たくもないだろうパーティの間の、暇つぶしになればいいかなって、思った。
「—— じゃあ明日また、会場で」
「はい、おやすみなさい」
と、言って、美絵さんはにっこりと微笑んで、ドアを開けて中に入って行った…… 次の瞬間。
「—— きゃっ!」
灯りの点いてない暗い部屋の入り口で、何かに躓いたのか転びそうになったのが視界に飛び込んだ。
「—— 危ないっ!」
俺は咄嗟に、閉まりかけたドアに手をかけ、部屋の中に足を踏み入れ、手を伸ばし、倒れそうになっている美絵さんの身体を抱きとめた。
パタン…と、ゆっくりとドアが閉まる音が、後ろで響く。
灯りの点いていない真っ暗な部屋で、夜の街の明るい光だけがカーテンを閉めてない、窓の辺りを薄っすらと照らしている。
「…… 美絵さん、大丈夫ですか?」
声をかけると、しがみ付くように腰に回されていた美絵さんの手が、俺のコートをギュっと掴んだ。
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