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—— 幸せのいろどり(39)
翌日の会食が長引いてしまい、直くんとの約束に間に合いそうになくて、1時間ほど遅れる事を伝える為に電話をかけた。
その時、通話口の向こうに何やら楽しそうな気配を感じたのを、直くんの実家方面に向かう車の中で思い出していた。
ごく普通の楽しそうで平和な正月なんて、あまり俺の記憶にはなくて、羨ましいな、なんて思う。
正月で混んでるだろうと思っていた道も意外と空いていて、予定よりも早く約束の場所に到着した。
よくある駅前のロータリーは、そんなに人も車も多くない。
直くんの家は、ここから近いのかな。
ちょっと早く着きすぎたかな。
そう思いながら車の外に出て、辺りの風景を見渡した。
今到着したばかりのバスから、意外と大勢の乗客が降りてくるのをなんとなく眺めていて、その中に、ひときわ目立つ女の子に目が留まった。
—— あれ?
身長も女の子にしては高くて、胸の辺りまで伸ばした金髪に近い綺麗な髪。 黒のリボンカチューシャが、よく似合ってる。
グレーのダッフルコートの下から見える、ふわふわした黒いスカートを気にしながら歩いてる女の子?
思わず口元が緩んで、吹き出しそうになった。
その子の方に近付いていくと、此方を見ないようにして逃げようとしているのが可笑しくて。
「直くん?」
声をかけると、固まったように動かなくなってる。
「…… 直くんだよね?」
笑いを堪えてもう一度確認したら、直くんは耳まで真っ赤になって振り向いた。
「…… はい、直です」
観念したように応えたけど、そんな格好で、俺に気が付かないフリをして、いったい何処に行くつもりだったの? —— と、思うと、また笑いが込み上げてくる。
「あの……、どうしてこんな格好を?」
そう言って、顔を覗きこむと、余計に焦って真っ赤になっている。
「えと、その…… 説明するから、車に乗ってもいい?」
スカートを押さえながら、周りの視線を気にしてる格好が可愛すぎる。
「そうだね。 寒そうだし、早く車に行こう」
もう笑いを我慢することができずに、直くんの肩を抱き寄せながらも、クスクスと笑いが漏れてしまっていた。
「どこから、どう見ても女の子に見えるよ」
「そ…… そうかな。 でも俺だと、よくすぐに分かりましたよね?」
—— そりゃ、分かるよ……。
でも、直くんは、ばれないと思ったから、さっき気が付かないフリをしていたのかと思うと、可笑しくて、可愛くて、そして…… ちょっとだけ苛めたくなってしまった。
助手席のドアを開けて、「どうぞ、お嬢様」とふざけると、「う、やめてください」と言って、更に顔を赤らめていた。
やっぱり、君といると楽しいよ、直くん。
大晦日から今日までの、気が重かった事がウソのように思えていた。
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