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—— 幸せのいろどり(40)
直くんのマンションまで送って行くくらいの時間しかないのが悔やまれるほど、本当に女の子の格好が似合ってる。
直くんが何故こんな格好をしているのか、事細かく話してくれているのを楽しみながら、取りあえず直くんのマンション方面に車を走らせていた。
直くんの実家は本当に楽しそうで、話を訊いているだけで、自分もその中に入りたいなんて思ってしまう。
そんな経験は、両親が離婚する前にはあったような気もするけど、記憶が遠すぎて思い出せない。
「でも、こんな格好のまま、マジで外に出されるとは思わなくて、本当は透さんとの待ち合わせ時間までに、トイレで着替えようとおもってたら、もう既に透さんが待ち合わせ場所にいたから、びっくりした」
「それは、早めに着いてて良かったな」
直くんの胸の辺りで、ゆるくウェイブしている髪に触れたくて、運転しながら思わず手を伸ばして指に絡めていた。
「早く着いてなかったら、こんなに可愛い直くんを見るチャンスを逃すところだった」
「…… 可愛いだなんて……」
別に女の子に見えるから、可愛いって言ってるわけじゃないんだけど、それ以上うまく言えないもどかしさに、またハンドルを両手で握り直し、まっすぐに前を見た。
行きと同じで、道は空いていて、少しだけど時間の余裕が出来そうだ。
もう少しだけ一緒にいたくて、でも夕飯を食べるには時間も早いしで……。
もう辺りは、すっかり暗くなってきていて、車は俺がよく知っている道を走っていた。
「そうだ、ちょっとだけ寄り道してもいい?」
「寄り道? うん、いいよ。 透さんは時間大丈夫なの?」
「うん、まだ大丈夫。 じゃ、ちょっとだけ寄り道しようか」
車線を変更して、右折ラインに入って行くと、「何処行くの?」って、直くんは子供みたいにわくわくした顔で訊いてくる。
「気に入ってもらえるか分からないけど……、まだ内緒だよ」
そう応えると、直くんは余計に期待してしまったみたいで、嬉しそうに窓の外をしきりに見ている。
前に仕事の関係で通っていて見つけた場所で、実は男の子の直くんに気に入って貰えるかどうか、本当に自信は無いんだけど。
直くんのわくわくした顔を見ていると、俺も一緒にその場所に行けることが、なんだか楽しみになってきた。
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