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—— 幸せのいろどり(41)
山手にある閑静な住宅街は、昔、俺が建築課で現場監督をしていた頃、初めて担当した家がある。
何をするのも初めてで、喜んでもらえるように最善を尽くそうと、毎日遅くまで現場に行ってたっけ。
その頃、夜遅くに車で帰る時に見つけた場所。
高い丘の上にある住宅街は、夜になると夜景が綺麗で、特に公園の前は遮るものが何もなくて、見通しがよい。
「え? ここ? 公園?」
不思議そうな顔をして俺の方を見る直くんに、「前を見てごらん」と言って、フロントガラスを指差した。
「…… わ……ッ」
前方が行き止まりで、ガードレールの向こう側に広がる都会の夜景に、直くんが感嘆の声をあげる。
その横顔がキラキラと輝いているように見えて……。
直くんは、素直に、綺麗なものを綺麗だと、そのまま受け止める。
そんな純粋な笑顔を、俺のせいで曇らせてしまうんじゃないかって、いつも不安になるけれど……。
直くんが俺に飽きるまででいいから、それまでは俺から直くんを手放すことはないんだろうな、と考えていた。 同時に、結婚の話はなるべく先に延ばせるように父からも言ってもらえるように頼んでみよう、なんて都合のいい事も。
「夏になると河川敷でやってる花火大会とか、ここからよく観えるんだよ」
「へえー、ここからだと、夜景と花火が一緒に見えて綺麗だろうなー」
「うん、綺麗だよ。 夏になったら、一緒に観よう」
夏まで一緒に居れるかどうかも分からないのに。 俺はその時、本当に心からここで一緒に花火を観たいなんて思っていた。
—— しかし、似合ってるな。
隣を見ると、助手席で少し前のめりになって、前方の夜景を眺めている直くんが、女の子にしか見えなくて、コートの下のワンピースが気になって仕方ない。
「ね、直くん。 車の中だし、寒くなければ、そのコート脱いで欲しいんだけど」
「え? コート?」
「折角可愛い服を着ているのに、コート着てるとよく見えないから……」
「服は、可愛いかもだけど、俺、男だし、よく見えなくていいよ!」
そんなに恥ずかしがられると、余計に見てみたくなるんだよ。
「駄目かな……」
「いい…… ですけど…… 恥ずかしいから、ちょっとだけだよ?」
照れながらも、直くんはシートベルトを外して、コートを脱いでくれた。
コートを右手に持って後ろの座席に腕を伸ばして置く瞬間に、ふわりと長い髪が後ろになびく。
スクエアカットの胸元から、首筋のラインが綺麗で……、思わず見惚れてしまっていた。
「と、透さん、そんなに見られると……」
気が付けば、何かを言いかけた直くんの、艶のある唇に吸い寄せられるように口付けていた。
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