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—— 幸せのいろどり(47)
美絵さんと……『結婚してもいい』…… なんて思ってたけど、それは、とんでもない思いあがりで、失礼な事かもしれない。 ずっと一緒にいたいと思う人は、別にいるのに。
—— 俺が、ずっと一緒にいたいと思う人…… は、一人しかいない。 …… 直くんとは、ずっと一緒にいれるわけはないけれど。
「…… でも……、」
「でも?」
「ここまで話が進んでいるのに、そんな勝手なことが許されるわけ……」
「いいじゃない、会社辞めちゃえば」
突拍子もない事を簡単に言ってしまう静香に驚いて、言葉が詰まった俺に、静香は更に言葉を続けた。
「お兄ちゃん、今までお父さんに意見言ったり、反抗したことないんでしょう? お父さん、きっと話せば解ってくれると思うんだけど」
「…… 静香は、ずっと父さんに会ってないのに、なんでそう思うんだ?」
「お母さんの月命日にね……。 いつも誰かがお花を供えてくれてるの。 お父さんじゃないかな。 お父さん、やっぱりずっと一緒に居たかったのは、お母さんじゃないのかな」
静香は同意を求めるように、「ね? そう思うでしょ?」と、言いながら、助手席から身を乗り出して俺の顔を覗き込んでくる。
—— 静香の話は、想像の域を出ない。
だけど…… そう言えば、俺はいつも父のことを避けていて、ちゃんと話をしてこなかった。 結婚のことも、仕事のことも。
どんな結果になるにせよ、ちゃんと向き合ってみなければ、これ以上先に進むどころか、引き返す事すら出来ない気がした。
でも…… その為には……。 決めておかなければならない事がある。
「静香、ちょっと、電話してきていいかな?」
「うん、どうぞ、どうぞ」
俺が何処に電話すると思ったのか、嬉しそうに応える静香に、苦笑しながら、ドアを開けて外に出た。
暖房の効いた車内との温度差に、身震いする。
1枚の名刺を取り出して、番号を確認しながら携帯に入力する。
呼び出し音は2回で途切れ、相手が通話口に出た。
『はい、神谷……』
「篠崎です」
『おっ、早速連絡くれたね』
「…… はい。 突然で申し訳ないのですが、明日、お時間頂けますか?」
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