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—— 幸せのいろどり(48)
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久しぶりにゆっくりと祖父母の家で夜を過ごし、翌朝、月曜から始まる仕事の準備をするつもりだったので、車を会社の駐車場に入れてから2駅離れた神谷さんの設計事務所へは電車で向かった。
ビルの中のワンフロアが、神谷さんの設計事務所で、思っていたよりも広くはない。
『俺の会社に来ない?』
と、わりと軽いノリで言っていた神谷さんの真意を訊きたかった。
まだ休みで、神谷さんの他は誰もいないだろうと思っていたのに、オフィス内には10人位の人が仕事をしていた。
「うちは人数少ないけど、仕事の量多いからね。 休日も殆ど無いなんて、大きな声では言えないんだけど」
神谷さんは、そう言って苦笑した。
「大きなビルなんかの仕事もしない。 個人のクライアント中心で無理のない資金計画を客観的に判断してご提案している……」
神谷さんの話に、気付いたら惹き込まれて何故か心が踊るような気がしていた。
「でも今、診療所や介護事業のコンサルディングと一体になった施設設計もしていてね」
「コンサルティング? 神谷さんがされているんですか?」
少し照れたように神谷さんは、「まぁ…… そう」と言って笑った。
事前の事業計画の打ち合わせで、クライアント様の考えを十分理解してダイレクトに施設設計に反映させることが、メリットだと言う。
「…… 透くんは、高校の頃言ってたよな。 家族が幸せに暮らせる家を造りたいって」
「…… え? そんなこと神谷さんに言ったんですか?」
ニヤリと口角を上げながら、「言ったんだよね、それが」と、神谷さんは言った。
それは確かに…… その頃はそんな夢があったような気がする。
「うちは、人手が足りない。 君は、暖かい気持ちの篭った家を造りたい。 お互いプラスになると思わないか?」
—— 給料は…… 今より随分落ちると思うけどね。 と、言葉を続けて、神谷さんはかたをすくめて笑う。
でもその表情は自信に満ち溢れていた。 きっと自分の仕事に誇りを持っているんだろう。
「でも……、俺はその前に父と話しをしなければなりません」
「昔、篠崎社長は言ってたけどな……」
神谷さんは煙草を咥え火を点けながら、俺に視線を合わせた。
ライターのオイルの匂いがやけに鼻腔をくすぐる。
「…… 透には、自由に生きて欲しいって」
その言葉に、俺の心の内は大きく揺さぶられる気がしていた。
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外に出ると、もう11時を過ぎていて、冬にしては暖かい日差しに目が眩む。
何か…… 昨夜からの、静香や神谷さんと話したせいか、長い間心の中に引っかかっていたものが、少し軽くなった気がしていた。
携帯の電源を切っていたことを思い出して、ポケットから取り出してみる。
—— 直くんからの、メールが1件入っていた。
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