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—— 幸せのいろどり(58)
直くんのマンションに着いて、車を何処に停めていいのか分からずに、取り敢えずエントランスの前に停車した。
携帯を取り出し直くんの番号を呼び出して、ボタンを押そうとした指を一旦止めた。
部屋で寝ていて、電話で起こしてしまっても可哀想だし、どうしようか……。
少し迷いながらエンジンを止めて、買ってきた苺の入った袋を手に、車を降りた。
学生専用のワンルームマンションは、1階のエントランスはオートロックになっている。
—— 電話をかけるしかないか……。
そう思いながら、もう一度携帯を取りだそうとポケットに手を入れた時、駐車場の前の道路に一台の車が停車した。
四駆のアメ車のエンジン音の大きさに、自然にその車へ、俺の視線は引き寄せられた。
窓ガラス越し、微かに見える中の様子に、思わず目を凝らした。
一瞬だけ重なった、運転席と助手席の二人の人影。
行き交う車のライトが、時々二人の顔を照らしていて…… 助手席側の人影の肩越しから、運転席の男の視線と俺の視線が、確かに絡んだ。
そして、また重なる二人の影。
強く抱きしめ合い、激しく唇を重ねている様子が、数メートル離れた所に立っている自分にまで、熱と一緒に伝わってくるようで……。 俺は、その二人から、目を逸らせない。
—— 逸らしたいのに……。
まるで、金縛りにでも合ったかのように、身体は硬直する。
漸く二人の影は離れて、助手席側のドアが開いて、ルームライトの淡い色が点灯する。
そこから降りてきたのは、俺のよく知っている人。
君に早く逢いたくて……。 逢って、自分の気持ちを伝えたいと思っていた。
そして、運転席に乗っているのは……。
—— バタン—— と、助手席のドアが閉まる音がして、車が動き出しても、君はその車が見えなくなるまで、見送っている。
此方へ向かって歩いてくる君は、俺に気付いたのか、一旦足を止めた。
「おかえり、直くん」
「…… 透、さん……」
一瞬、躊躇うように俺の名を呼んで、直くんはエントランスの灯りが届くところまで近付いてきた。
「透さん、どうしたの?」
大きな瞳をいっそう大きく見開いて、驚いた様子で俺を見ている。
俺が此処にいる事にそんなに驚いてしまうのは、さっきキスをしていたから?
四駆のアメ車が、さっきまで停まっていた位置に、俺が視線を戻すと、直くんは落ち着きなく視線を彷徨わせる。
胸の奥が締め付けられるように苦しくて、痛くて、早く直くんに否定してほしかった。
さっきキスをしていたのは、自分の意思じゃないと、言ってほしい。
今日の昼前、人通りの多い交差点の近くで、抱き合ってキスしていたことも。
—— 自分の意思じゃないと、直くんの口から、早く訊きたい。
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