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 ―― 幸せのいろどり(62)

 あの人が付けた痕の多さに、胸の奥からこみ上げる熱くて苦しい感情以外に、どうしようもなくやり場のない怒りが心の底に溜まっていく。 「ここも愛してもらった?」  ベルトを外してジーンズの前を寛がせて下着の中へと手を滑らせると、もう既に形を変えていた直くんの中心が更に硬度を増した。 「…… ッ」  ピクリと身体を震わせて、君はこんな状況でも、ここから先を期待している。  それを知りながら、俺は焦らすように、直くんの中心に指を絡ませて緩く上下させ、もう片方の手を直くんの後ろに回し、双丘の谷間を指で辿るように触れていった。 「…… あ……、」  その奥の秘部へ、人差し指を軽くあてがうと、直くんは小さく声を漏らす。 「気持ちよかった?」 「…… え?」 「あの人のセックス、どうだった?」 「……」  何も言わないということは、あの人をここに受け入れたと認めていることになるんだよ、直くん。  その入り口を指で撫でると、心なしか湿り気を感じる。  ついさっきまで愛し合っていたんじゃないかと、頭の中に想像したくもない光景が過ぎってしまう。 「…… ァ…… とっ…… る、さんっ……」  緩い刺激に焦れたように、直くんは腰を揺らして、俺の指にそこを擦りつけてくる。  あの人に何度も許しただろう其処は、僅かに触れただけで俺の指を飲み込もうとヒクつく。 「…… 足りない?」  入り口の濡れた感触や柔らかさに眉をひそめ、そのまま人差し指を直くんの中に付き立てた。 「…… あッ、…… ぅ…… ッ」  突然の侵入に痛みがあったのか、直くんは小さい悲鳴のような声をあげた。 「…… 柔らかいね」 「…… ッ!」 「少ししか触っていないのに、こっちはもうこんなに濡れているし」  緩い刺激を与えただけなのに、もう直くんの蜜口からは透明の液体が溢れて滴り落ちていた。 「好きなんだね、セックスが。」 「…… ッ…… ゃ」  感じやすい身体。  流されやすい性格。  初めから分かっていることだった。  こんな日が、いつかは来ると、俺は分かっていたはずなのに。  まだ自分の想いは、伝えていなかったのだから、傷は最小限のはずだと思っているのに。  ―― 何故、こんなに辛いんだろう。 「抱いても…… いい?」  直くんの返事を待たずに、俺はその蜜口から溢れる先走りを指に絡めて、後孔を濡らしていった。

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