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 ―― 幸せのいろどり(90)

 ―― 知っている…… って…… その言葉の中に何処までの意味が含まれているのか分からなくて、戸惑いを隠せない。 「…… どうして知ってるのかって、顔をされてますね」  潤んだ瞳から、また一つ、また一つと雫が落ちていく。 「…… 美絵さん……」  俺が差し出したハンカチを受け取らずに、美絵さんは目尻の涙を指先で拭った。 「…… 優しくしないでください」  そう言って、無理やり笑顔をつくっている。 「…… なんとなく、分かってました。 …… あの大晦日の夜から」  大晦日の夜。  ――『透さん、私達…結婚するんでしょう?』  ――『…… そうだよ ……大丈夫、俺達は結婚するよ』  俺はそう言って、彼女をそっと抱きしめて、僅かに触れるだけのキスをした。 あの時から、俺が他に好きな人がいると、気付いていたと言うのか。 俺の無責任な言葉から、どれだけこの人を傷つけたのかと心咎めて、今更ながら後悔する。 「―― 本当に、申し訳ありません。 俺の無責任な言動で、美絵さんを傷つけてしまうことになってしまって」 「…… いいえ、謝らないでください。 私はまだ…… 諦めたわけではありませんから」 「…… え?」  驚く俺に、美絵さんは微笑んでみせると、リビングのサイドボードの引き出しから茶色い封筒を取り出した。 「申し訳ないとは思ったんですけど、少し調べさせていただきましたの。 貴方がどんな方とお付き合いされているのか、気になってしまって」  そう言って、美絵さんは封筒の中から何枚かの写真を取り出して、テーブルの上に並べた。 「―― これは……」  思わず、その中の一枚を手に取った。  そこに映っているのは、俺…… と、俺に肩を抱き寄せられて、恥ずかしそうにしている背の高い女の子。  胸の辺りまで伸ばした金髪に近い綺麗な髪に、黒のリボンカチューシャがよく似合ってる。 「可愛い人ですね」  美絵さんの言葉が耳に入らないほど、俺は驚いていた。 ―― いつの間に…… 写真を撮られていたなんて、気付かなかった。 「…… それに若いし……」  写真は、それ以外にも、俺が車のドアを開けてエスコートしているところや…… あの夜景を見ていた車の中で、キスをしているところまで……。 「だから、その写真を見た時は、もう諦めようと思いました」  だけど…… と、美絵さんが続けた言葉が、呆然と写真を見つめていた俺の耳に、強調するように入ってきた。 「…… その人、男性なんですね?」

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