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 ―― 幸せのいろどり(epilogue5)

 君が何処に触れて欲しいのか分かっているし、  俺にどうして欲しいのかも分かっている。  俺は、君の全てを知っているつもりになっている。  一緒に高みに昇り詰めて、お互いの熱を感じ合うことで、愛し合っていると感じることは出来る。  だけど…… 今でも時々思ってしまう。  ずっとこのまま俺と一緒に居て、君にとってそれが一番良い事なのかと。  *** 「直くん、早くしないと時間ないよ?」  シャワーを浴びて、バスルームから出てきた直くんに、ウォークインクローゼットからハンガーに掛けてあったスーツを出して渡した。 「あー、もう、なんでこんな日に結婚するんだよ、アイツは」 「そんなこと、文句言っちゃダメだよ。 折角おめでたい日なんだから」  笑いながら、直くんが早く身支度出来るように、シャツやネクタイをベッドの上に並べていく。 「そう、だけどさぁ……」  シャツの袖に腕を通し、ボタンをかけながらも、まだぶつぶつと小さい声で文句を漏らしている。 「透さんは、もう準備出来たんだ?」 「うん、俺はもう出来てるから、直くん早くね」  他の部屋の戸締りを見に行って、寝室に戻ると、直くんは何とかスーツを着終えたところだった。 「…… これで、いいかな」  仕事柄、きっちりとしたスーツを着ることの少ない直くんが、こうして偶に着るのはすごく新鮮だ。  歪んだネクタイを直してあげながら、「似合ってるよ、とっても」と言うと、「ありがと」と満面の笑みを返してくれる。  こんな穏やかで平和な日々は、本当にずっと続くんだろうか。 なんて、また心の片隅で思ってしまうのを、俺は首を振って否定する。  ―― ずっと続くに決まっている…… と、自分に言い聞かせて。  ***  結婚式場は、直くん達が卒業した大学のチャベル。  冬だけど天気も良くて、高い位置にある窓から射してくる柔らかい日差しに包まれた新郎新婦は、とても幸せそうだった。  チャベルの外に二人が出てきて、皆で祝福のフラワーシャワー。  新婦は可愛くて、純白のウエディングドレスが似合っていて、新郎は普段とは違い、ちょっと緊張していて硬くなっている。  そんな二人に温かい笑顔で、「おめでとう!」と、声を掛けている直くんの横顔を眺めながら、俺には、こういう普通の幸せを、直くんにあげることが出来ないもどかしさを感じていた。

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