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 ―― 聖夜と生クリーム味の……(14)

「…… 直くん」  透さんに呼ばれて顔を上げると、じっと俺を見つめる漆黒の瞳は、さっき口元の生クリームを舐めた時みたいに、妙に怪しく艶めいて、色っぽくて。  優しく微笑んでるのに、なんていうか、周りの空気が変化したような……。 「今日、泊まっていく?」 「…… え?」 「車で送って行くつもりだったんだけど、俺、お酒飲んじゃったし、直くんが良ければだけど……」  時間を見たら、23時過ぎたくらいだ。電車はまだあるから、帰れるけど……。 「泊まるんなら家の人に連絡しないと駄目だよね?」 「あ、俺 今一人暮らしだから、それは大丈夫です」 「そう……。じゃあ気にしなくて良いんだね?」  うん、それは大丈夫……。大丈夫なんだけど、それでもなんか、泊まったらいけないような気がしてならない。  さっきから自分の心臓が、やばい、やばいって、警鐘のようにドキドキと鳴っているんだ。  だって、こういう雰囲気って……、この空気の変化って……、あれだよね? いやいや、でもでも、そんなこと、あり得ないんだけど……。 「でも、今日知り合ったばかりなのに、なんか悪いような気がして……」  やっぱり帰りますって、そこまで言いかけたところで、透さんの言葉に遮られた。 「そんなの関係ないよ。俺が直くんと一緒に居たいと思ってるんだし」  俺と一緒に居たい? その言葉に反応して、また顔が熱くなった。 「俺と一緒に居るの嫌?」  耳元で囁く、優しくて甘い声。 「…… 嫌じゃな…… ッ」  言いかけた俺の顔を覗き込むようにして近づいてくる透さんの顔。  ―― 近いっ!  なんか、めちゃ近くない?顔……。え?何、この感じ……。  なんか……、なんか……、なんか! やっぱりこの空気やばくない? 透さん、もしかして酔ってるのか?  あっ! と思った瞬間に、透さんの唇が、俺の唇に触れた……。  ―― えええええええええっ?!  さっきみたいに、生クリーム舐めるとかでなくて! キスっ? キスしてる?!  驚いていて眼を見開いていると、その唇は、すぐに離れていく。 でもまだお互いの鼻先が触れるくらいの距離しか離れていなくて、黒い瞳がキラキラして、俺の顔を映している。 「…… なんで……」  俺がそう言いかけると、その瞳との距離が縮まり、また唇を塞がれた。  上唇を甘噛みして、そのまま透さんの舌が俺の唇を割るように滑り込んできた。思わず強張って噛み締めてしまった歯列を、透さんのそれが優しくなぞる。  同時に、形の良い細くて長い指が、俺の首筋を掠めるように撫でていく。 「…… あ」  思わず声を漏らしたその隙に、奥へと逃げる俺の舌は、透さんに簡単に絡め捕られてしまった。  ―― 甘い…… 生クリームの味がした。

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