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—— 迷う心とタバコ味の……(10)
透さんが、玄関のドアを開けて、「どうぞ」と、俺の背中に手を置いて、中へ招き入れる。
「お邪魔します」
俺が靴を脱いでいると、背後でドアが閉まり、鍵をかける音がしたと思った瞬間、突然背中から抱きしめられた。
そのまま壁に押し付けられて、顎を獲られ、顔だけ後ろを振り向く姿勢で、性急に唇を塞がれる。
「…… んんッ……」
激しく唇を貪られながら、急くように脱がされたコートは、ストンと床に落ちて足元に纏わりつく。
重ね着しているニットとシャツの裾から、透さんの手が滑り込んできた。
「…… アッ…… ふ…… ん…… ッ」
素早く胸の突起を探り当てた指先に、そこを摘ままれると、重ねた唇の隙間から、恥ずかしい喘ぎ声が漏れてしまう。
服の下で弄るように動く手に、咥内を余すところなく愛撫する舌に、腰の奥が熱く疼いてしまう。
透さんは、まだ靴を履いたままで、コートも脱いでいない状態。
俺の脱ぎかけていた靴は、片方だけ転がっている。
「とお…… るっさ…… んんッま…… ッ…… て…… アッ……!」
—— ここ、玄関なのにっ――!
「待てない……」と、言いながら、透さんの手が俺のズボンのベルトにかかる。
「あの……、あのっ、俺、シャワー浴びたい……」
「どうせ、汗かく事するから、後で一緒に入ろう」
そう言いながら、またキスをする。
俺は、どんどん深くなるキスに応えながら、なんとかもう片方の靴を脱ぐ。
きつく抱きしめられた腕の中で、身を捩りながら向き合って、俺も透さんのコートに手をかけて、脱がしていく。
「じゃ、ベッドに行きたい。 ここだと外に聞こえそうだし。 ね?」と、今度は透さんのネクタイの結び目を緩めながらお願いする。
「そうだね……」
透さんは、苦笑しながらそう言うと、俺の腰の辺りに腕を巻きつけて、そのままヒョイっと身体を持ち上げて歩き出した。
「うわっ!」
肩に担がれてる感じの体勢。
透さんは、寝室のドアを開けて、俺をベッドにゆっくりと下ろすと、そのまま覆いかぶさるように唇を重ねた。
何度も啄ばむようなキスを落とした後、耳元に唇を寄せる。
「直くんに逢いたかった……」
甘い声で囁かれて、ドキンと、心臓が高鳴った。
―― 俺も、透さんに逢いたかった……。 俺はその時、そう言おうとしたんだ……。
だけど……
「早く、こうしたかった。直くんを抱きたかった」
…… え?
―― …… 抱きたかったから、逢いたかったの?
激しいキスを受けながら、頭の中では透さんの今言った言葉が、リフレインしてる。
その間も、熱く濡れた舌が、首筋を這い、ニットとシャツを同時にたくし上げ、露わになった肌を食み、透さんは紅い痕を残していく。
勘違いかな、って、考えすぎかなって、思うけど……。
やっぱり、そういう事なのかな、って思ってしまうと、また少し胸の奥がチクンとする。
それなのに……、
「好きだよ……」と、呟くような声で、甘い言葉が耳に届いた。
心の中で、(そんなの嘘だ……)と、自分に言い聞かせながら、俺は透さんの首に腕を絡めて、キスを強請った。
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