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―― 迷う心とタバコ味の……(12)
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なんだか……暖かくて、気持ちいい……。
朝なのかな…。 でも、もう少し寝ていたい…。
ゆっくりと、重い瞼を薄く開けてみたら、目の前に…… チャコールグレーのTシャツを着ている誰かの胸が見えた。
目線を上へと辿ると…透さんの寝顔。
―― あ……、そうか。 昨夜、透さんと……。
俺をしっかりと、抱きかかえるようにして眠ってる透さんの胸に、顔を埋めて寝てたのか、俺……。
―― まるで、女の子みたいじゃん!
でも、あったかくて、気持ちいい原因は、これだったんだ。
もう一度目線を上に向け、起こさないように、そっと、透さんの寝顔を見た。
閉じた瞼を縁取る、真っ黒な睫が、濡れたように艶があって、いつもよりも長く感じる。
程よい厚さの唇は、ゆるやかにカーブしていて、その両端に僅かな窪みがある。
―― 眠っているのに、微笑んでるみたいだな。
そう思いながら、唇の形を、指でそっとなぞった。
―― ホントに、色が白いなぁ。
肌の色は、透き通るように白くて、細面な輪郭に、黒くて艶のある髪が映える。
―― こうして見ると、透さんは、かっこいいと言うより美人だな……。
「あんまり、見つめないでくれる?」
目を閉じているのに、クスッと笑みをこぼして、俺をギュッと抱きしめてくる腕。
「透さん、起きてるの?」
「熱い視線を感じちゃってね」
そう言って、透さんは俺の額に額をくっつけながら、目を開けて微笑んだ。
寝起きだからか、漆黒の瞳が濡れたように艶めいている。
「おはよう」と、軽く唇にリップ音を立ててキスをくれる。
「おはよう」と、返して目を合わせるけど、俺はなんだか恥ずかしくて、すぐに俯いてしまう。
透さんは、クスッと笑って、俺の頭を優しく撫でてくれる。
―― なんだか、甘い恋人同士の朝みたいだ。 …… なんて、思ってしまう。
あの最中に微かに聞こえた、甘い言葉も、あれは透さんの本心かもしれないなんて、馬鹿な期待をしてしまう。
―― 『好きだよ……』
そんなことは、ありえない。
だって、透さんが好きな人は…… もう分かってるのに。
あの最中の『好き』なんて言葉は、テンプレみたいなものだってことも、俺は知ってる。
お互いが気持ちよくなるように、セックスを盛り上げる為の、ただの台詞でしょう?
そんなの分かってる……。
だから、一晩中俺を抱きしめて、寄り添って眠ってくれたことだって、朝になってもこうして優しくしてくれるのだって、期待しちゃいけないんだって分かってるし。
俺だって、子供じゃないんだから、この暗黙のルールに乗るのは当たり前で……。
恋人でもなくて、ゆきずりの他人でもない。 この、とても曖昧な関係を何て呼ぶんだろう。
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