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 ―― 迷う心とタバコ味の……(24)

 ホッとしたのも束の間、運転席に乗り込んだ透さんの視線が痛い。 「ごめんね。折角、直くんが可愛い格好してくれてるのに、あんまり時間が無いんだよ」  電話でもあまり時間が取れないみたいなこと言ってたな。でも、正月もまだ2日目なのに。 「なんか、忙しそうですね?仕事で?」 「いや、うん、仕事の事もあるけど、家で色々とあってね。 だから、実家とマンションを行ったり来たりで、あまりお正月な感じじゃないんだよ」  と、話す透さんの横顔は、そう言えば疲れているように見えなくもなかった。 「そうなんだ、忙しいのに俺、こんな所まで迎えに来させてしまって……」  透さんの疲れた顔を見ていたら、少しでも時間が空いたんなら、こんな遠くまで俺を迎えに来るよりも、身体を休ませた方が良かったんじゃないかと、心配になった。 「そんな事、気にしなくて良いよ。 俺が直くんに逢いたくて、電話したんだから」  優しく甘い声でそう言われると、なんだか くすぐったい気持ちになってしまう。 「とりあえず、直くんのマンション方面に向かうね」  エンジンをかけながら、透さんはそう言って、視線をこちらに向ける。 「はい」  斜め45度の角度で目が合って、柔らかく微笑む透さんに、なんだかドキドキしながら返事をした。  透さんは運転しながら、俺が何故こんな格好をしているのかという、悲劇の理由を笑いながら訊いてくれた。 「ひどい話でしょ?」 「あはは、面白いね、直くんの家族は」  本当に楽しそうに笑ってくれてるから、いいんだけど……。 「でも、こんな格好のまま、マジで外に出されるとは思わなくて、本当は透さんとの待ち合わせ時間までに、トイレで着替えようと思ってたら、もう既に透さんがロータリーにいたから、びっくりした」 「それは、早めに着いてて良かったな」  運転しながら、透さんの左手が伸びてきて、胸の辺りで揺れているウイッグに指を絡めた。 「早く着いてなかったら、こんなに可愛い直くんを見るチャンスを逃すとこだった」 「…… 可愛いだなんて……」  俺はこんな格好、見られたくなかったのに。 「似合ってるよ、すごく。 知らない人が見たら、きっと男だとは気が付かないだろうね」  ウイッグから手が離れていって、ハンドルを両手で握り直す透さんの横顔は、なんだか嬉しそうに微笑んでいた。  正月だからか、道は思ったよりも空いていて、スムーズに流れていた。  この分だと予定よりも早く俺のマンションに着きそうだなー、なんて考えていると、 「直くん、お腹空いてる?」と、透さんが訊いてきた。  今日は、起きてからお節とかをちょこちょこつまんだり、お雑煮や、あと焼き餅とかも食べていて、あまりお腹は空いていないけど。 「俺、あんまりお腹は空いてないんだけど……、透さんは?」 「俺も、まだあまり空いてないんだよね」  正月って、家にいると、いつも何か食べてるよね、なんて会話をしていると、 「そうだ、ちょっとだけ寄り道してもいい?」と、透さんは、何か閃いたようにそう言って、ちらりとこちらに視線をよこす。 「寄り道? うん、いいよ。透さんは時間大丈夫なの?」  時間があまり無いって言ってたから、少しだけ気になった。 俺としては、このまま自分の部屋に帰るより、もう少し一緒に居たかったけど。 「うん、まだ大丈夫。じゃ、ちょっとだけ寄り道しようか」  そう言うと、右のウインカーを出して、車線を変更して、右折ラインに入って行く。 「どこ行くの?」  寄り道って訊いて、少しわくわくする。 「んー、気に入ってもらえるか分からないけど、まだ内緒」  そう言いながら、俺の方をチラっと見て微笑む顔がまた色っぽい。本人は無自覚なのかもしれないけど。  俺は透さんが時折見せる色っぽい顔に、いちいちドキドキしてしまう。

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