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 ―― 迷う心とタバコ味の……(29)

 1月も4日にもなれば、お正月ムードも薄れてるだろうと思ってたけど、街を歩いてると、まだ破魔矢を持ってる人とか、福袋持ってる人とか見かける。  まだまだ、おめでたいモードの人混みの中を、俺は一人でブラブラしていた。  サークルの新年会の時間は、19時からだから、まだあと1時間以上もある。  会場となるバーは、何でもサークルの会長のお兄さんが経営してるバーらしくて、今日まで店は正月休みだから、新年会の為に貸切させてもらえるらしい。  料理や飲み物などの準備は、女の子達が中心でやってくれるらしくて、1年なのに、俺は開始時間に入れば良いと言われたので、服でも買おうかなと、ブラブラしながら時間を潰していた。  大通りの歩道を歩いていると、反対車線の車が、突然うるさくクラクションを鳴らした。  俺は反射的にそちらを見遣り、向こう側の歩道に知った顔を見つけて、思わず立ち止まった。  ―― 透さん……?  遠くから見ても、背が高くてスタイルの良い透さんは、人目を惹く。  俺は、立ち止まったまま、歩いていくその姿を、ただ目で追う事しか出来なかった。  …… 透さんの隣に歩いているのは、バイト先のカフェに、いつも透さんと一緒に来ていた人。  透さんと別れて、別の人と結婚して、アメリカに行ったはずの彼女だった。  彼女と透さんは腕を組み、二人で楽しそうに会話を交わしながら歩いていく様子が、大通りを挟んだこちらからでも、よく分かる。  ―― どうして……。  なんで一緒にいるんだ、別れたんじゃなかったの? それとも、よりが戻ったとか?  透さんのマンションのリビングに飾られていた写真が頭を過ぎる。  啓太に言われて、今度マンションに行った時にまだ飾ってあったら、ちゃんと訊いてみようと思ってたんだ。  なのに……。  透さんは、俺に全く気付かずに、距離がどんどん離れていく。  二人は今から何処へ行くのか……、考えると胸の奥がツクンと痛み、息が苦しくなってくる。  人が途切れなく行き交う歩道で、俺は暫く立ち尽くしていた。 二人の姿が見えなくなっても。  ****  直接訊いてみないと分からない……。  携帯で透さんのアドレスを呼び出しては、閉じる。 呼び出しては、閉じるを繰り返していた。  訊いてどうするんだ。  確かに曖昧な関係だと思う。  お互いの気持ちを確かめる事をしていない。  会う度に身体の関係はあったけども。  セフレだと言われれば、そうだと思う。  彼女と二人で楽しそうに、腕を組んで歩く透さんを思い出すと、やっぱり胸が痛くて、息も苦しい。  ―― 『早く、こうしたかった。直くんを抱きたかった』  透さんの言葉を思い出して、また胸の奥に感じた痛みが、段々と広がる。  抱きたかったから、会いたかったの?  そう考えると、息が苦しい。  ―― 『本当は、真っ直ぐ帰るつもりだったのに、直くんの可愛い格好に、思わず欲情しちゃったよ』  やっぱり女性を抱く方がいいに決まってる。  苦しい……。  痛む胸の辺りをキュッと掴んで、大きな溜め息を吐いた。  …… 俺は…… どうしたいんだ。 この胸の痛みは、何なんだ。  透さんが、女性の方がいいと思うのと同じで、俺だって……。 女の子の方がいいに決まってる。  透さんとの関係は、ただ……、男同士でヤッてみたら意外と気持ちよくて、また機会があったらヤリたいと思ってるだけなのかもしれない。  だから、セフレって言うのが一番正しいと思う。  なのに…… なんでこんなに胸が痛くて、息が苦しいのか。

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