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—— 迷う心とタバコ味の……(35)
桜川先輩が、カウンターの中で手際よくカクテルを作ってくれて、ブルーの綺麗な色の液体をグラスに注ぎ、俺の前に出してくれた。
「はい、桜川スペシャル」
「凄い!オリジナルですか? カクテル作るの慣れてるんですね?」
「ここ、兄貴の店だからね、偶に手伝ってるんだよ」
そう言いながら、桜川先輩もカウンターから出てきて、俺の隣に座ってウィスキーをロックで飲み始めた。
俺もブルーの桜川スペシャルを飲んでみる。
「甘くなくて、すっきりしてて美味しい!」
「だろ?結構いけるだろ?」
「はい」
今まで喋った事もなかった先輩達に最初は緊張してたけど、みんな気さくに接してくれるので、すんなりと会話に入る事ができた。
最初は、ちょっとだけ……と、思っていたのに、いつの間にかそんな事も忘れるくらいに楽しかったんだ……。
だけど……、甘かった。
それは、桜川先輩の突然な質問から始まった。
「なぁ…、ゆりとヤッたんだろ?」
今までの和やかなムードが嘘のように、その場の空気が一瞬で変わった気がした。
驚いて、桜川先輩を見ると、さっきまで優しい笑顔だったのに、今は何だか……。 メガネの奥の切れ長の瞳が、俺の心の中を見透かすように、鋭い視線を送ってくる。
「え、いえ……」
ここはしてないと言うべきなんだと思うけど、鋭い目つきに、口籠ってしまう。
「なーお、正直に言った方がいいよ? コイツ嘘つかれるのが一番嫌いなんだって」
桜川先輩とは反対側の隣に座っている先輩が、ニヤニヤ笑いながら俺の顔を覗きこんでくる。 嫌な空気が重く纏わりついてきて、俺の第六感ってやつが、危険を知らせている。
もし、ゆり先輩との関係をゆり先輩自身から聞いて知っている可能性もあるわけだし、嘘をつかれるのが一番嫌いって言うなら、ここは、本当の事を言った方がいいのか……。 本当の事を言ったとしても、ゆり先輩は、桜川先輩とは別れたと言っていたし。
「あ、あの……、前に一度だけ……」
と、俺は恐る恐る、正直にそれだけ言った。
「やだなぁ、俺は別に怒ってるわけじゃないよ? ゆりがいつも、なおくん、なおくんって、お前の事を話すしさ」
―― ええっ、ゆりさん……、アナタ元彼にどこまで喋ってるんですか……!
それに、ゆり先輩とは、前に一度だけ教室で誘われて…って事はあったけど、あれから今日まで一度も会ってなかったし。
「あの、俺、ゆりさんとは、それきり何もなくて、今日も久しぶりに会っただけなんですけど」
今夜も誘われた事だけは、伏せた方がいいと思って言わなかった。
「ふーん、つか、良いんだよ、そんな怖がらなくて。 別にゆりと付き合うなとか言う話じゃないし。 俺はゆりとはとっくに別れてるしね」
「はぁ……」
どう応えて良いのか分からなくて、居た堪れない……。
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