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三角関係

夕方になり、時政が帰宅すると、英臣も幸い解雇されることはなく、この家に帰宅してきた。 しかし、やはりまたお互いが発情してしまう恐れがあるため、幸弥の発情期が終わるまでは、幸弥も英臣もなるべく、顔を合わせないように気をつけた。 そして五日ほど過ぎ、幸弥の発情期も終わり、久しぶりに気兼ねなく自室から出て、二人と顔を合わせられるとキッチンに向かったが、いざ三人で顔を合わせてみると、なんだか妙に空気が重苦しく、ピリピリとしたムードに包まれ、居心地の悪い思いをする羽目になってしまった。 幸弥は大人しくダイニングテーブルに着席すると、向かいに座っている時政の様子をそっと窺ってみた。 新聞紙を広げて記事に目を通しているが、どことなく機嫌が悪そうな雰囲気が見て取れる。そしてその原因はやはり英臣の存在なのだろう。 英臣の方は手際よく朝食の支度に取り掛かっているが、極力、時政の機嫌を損ねないように気配を薄めるように、粛々と作業を行っている。 次々とテーブルの上に並べられていく朝食を見つめながら、兎に角この気まずい空気を打ち消すための会話の糸口を探ってみた。 「時政さん、僕やっと発情期が終わったんで、その、ほとんど部屋に篭りきりですみませんでした」 取り敢えず発情期が終わった報告をし、自室に篭り、動けないでいたことを詫びた。 「動けないのはしょうがないだろう、気にするな」 表情は笑顔に切り替わったが、全体の空気が変わったとまではいかない。次に幸弥はすっかり支度の整った朝食に目をやり。 「このパンて、もしかして手作りですか?」 「はい、塩バターロールを焼いてみたのですが、お口に合えば」 「僕、手作りパンとか大好きなんだ。パンとかって難しそうだけど、ちゃんと作れるなんてスゴイですね」 「お好きなら、これからも色々と用意して差し上げますよ」 英臣も幸弥に対して、柔らかな物腰で接してくれている。問題はやはり、時政の方だろう。 幸弥はまだ焼き立てで、切ると中から湯気が立つ手作りの塩バターロールにバターを塗り、ほどよくバターが溶けて染み込んだところを一口頬張り。 「バターロール、すごく美味しいですよ。時政さんも、美味しいですよね?」 少しでも、空気を和ませるように、努めて明るく会話に持っていくように話しかける。 「まあ。悪くない」 パンを一口かじり、素っ気なくそう返す時政に 、素直に美味しいと言えばいいのに、意外と子供っぽいんだなあと幸弥は少々呆れていた。 時政は、伏し目がちに困った表情を浮かべる幸弥を見て。 「幸弥、そんなに心配しなくても、英臣を解雇したりしないぞ」 時政も幸弥の思っていることはお見通しだったようで、あれこれ、気を揉んでいる幸弥にそう言って安心させようとした。 「幸弥さん。俺が至らないばっかりに、余計な心配をさせてしまって申し訳ないありません」 続けて英臣も、幸弥の心配そうな雰囲気を見かねて、気を使ってくれている。 「そんな、かえって僕の方こそ、二人に迷惑かけちゃうみたいで、ごめんなさい。でも、これからも三人で一緒にいられて嬉しいです」 時政の言葉を聞いて、まだ円満とはいかなくとも、取り敢えず悪い展開にならなかったので、幸弥の顔の強張りがとれ、やっと安心できたように朝食に手を伸ばす。目の前に並べられていたふっくらと柔らかそうなオムレツを頬張ると、ほのかな甘みのある味が口いっぱいに広がった。

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