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第5話 走り出す
それから、弓月は家には来なくなった。
朝は大成だけが顔を出し、バイトが無い日も遊びには来なかった。
はるとに聞くと、忙しいみたい……そう返答するだけで深くは言っては来なかった。
はるとも弓月が家に寄り付かなくなって寂しいようだ。
「今日、弓月誕生日なのに……」
「え? そうなのか?」
「うん……彼氏でもできたのかな」
「え……? か、彼氏?」
そのはるとの言葉に動揺してしまう清十郎。
弓月に彼氏ができたかもと言われ、心音が早く鳴った。
「うん。この間、大学で弓月に言い寄ってる先輩がいて、大成が撃破してくれたんだけど……弓月って優しいから押されたら流されそうなんだよね……」
「そ、そうなんだ……」
「それに、この間失恋したみたいで、すっごく元気ないから……そこに漬け込む男がわんさかいるんだ。……弓月って、同性にモテるタイプなんだよね。電車とか乗ってると、いっつも痴漢されてるし」
「ちっ、痴漢だと!」
「そう。それで、大成が助けてあげるんだ。でも、弓月は優しいから、逃していいよって言って痴漢男を解放しちゃうんだ」
「そ、そうなのか……」
「誰か弓月を守ってくれる人現れないかな……」
そのはるとの言葉に、自分が、なんて思ってしまった馬鹿な自分。
何、立候補しようとしてるんだ。
振ったばかりだろっ。そう、心の中で葛藤した。
でも、ほっとけない。
「なぁ、はると。弓月のアパートって何処にあるんだ?」
「え? 大きなスーパーがある◯◯◯の5丁目のアオバハイツだよ」
「あそこか!」
「え? パパ行くの?」
「うん。弓月におめでとうって言ってくる」
「あ、うっ、うん」
考えるよりも即行動。
それは、大学まで続けたアメフトで鍛えられた事だ。
清十郎はジャケットを持ち、秋風に吹かれながら、ただ、ひたすらに走った。
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