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第4話
そのまた次の日もまた次の帰り道も霖は俺に付いて来た。そしてまた今日も、他愛無い話をしつつ最早慣れた様子で一緒に帰っているわけだが。そういえば何故今まで気にしていなかったのだろう、突然一つの疑問が降って湧いた。
「お前、朝は別々だがどうしてるんだよ?」
着任の日もだったがそれからも、朝は一緒に行く事が無かったのだ。帰り道は何日経っても不安だなんだと俺に付いて来るというのに、行きの事を全く考えていなかった。しかし思い返してみれば遅刻した日も無く、至って普通に出勤していたのだ。
「行きは、なんとなくここら辺を通る生徒に付いて行きます。流れで」
「今までよく普通に出勤してたな…」
一瞬で疑問が不安へと変わった。霖の話を聞いた限りだと今日までの数日は奇跡だったという事か。訊いて正解だった。危険にも程がある。
「なんで早く言わないんだよ。迷ったらどうしてたんだ」
「…流石に朝までは誘うのは迷惑かと」
「それくらい迷惑な訳あるか。むしろ──」
むしろ。その続きを自然と口に出そうとしたところで慌てて口を噤む。今俺は何を言おうとした?むしろ、
(…嬉しい……?)
いやまさか。確かに連日一緒に帰り、少しずつ霖の事も分かってきたかもしれない。それでもまだ数日だ。そんな数日で何を流されているのか。頼られるのはまあ、悪い気はしない。そういう事だ。この嬉しいはきっとそういう意味だ。頭の中で自問自答を繰り返していると、途中で言葉を切られた霖が不思議そうにこちらを見つめていた。
「むしろ、なんですか?」
「…ああ、いや。むしろ…むしろ、その方が余計な心配しなくて済むしな。だからまあ、なんだ。お前が良ければ朝もどうだ、って」
明らかに不自然に視線を泳がせながら何とか誤魔化し切った。しかし結局俺が進んで誘ったような形になってしまい急に恥ずかしさが込み上げる。朝もどうだ、ってなんだ。また一つ黒歴史を作ってしまった。
後悔の念に苛まれてる俺を他所に、霖は先程までの不思議そうな表情を緩ませ一言告げた。
「是非、お願いします」
そんな風に言われてしまっては仕方が無い。最悪の出会いから一変、なんだかんだ可愛がってしまってる後輩の微かな笑顔を横目に、俺も密かに表情を緩めた。
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