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第7話
その日の夜。あっという間に終えた一日だったが、俺は今日一日の出来事を思い返していた。朝は早かったものの昼は霖と飯を食い、部屋に戻ってからもそれなりにゆっくり過ごす事が出来たのでまあそこそこ良い休日になったか。
「連絡手段も出来…」
端末を手に無意識に呟くと、丁度良いタイミングでメールの通知が鳴った。驚いて反射的に端末を落としそうになったが、間一髪それを回避する。慌てて画面を見るとそこには「霖」の文字が。
『霖です。明日の朝何時に出ますか?』
そういえば朝も一緒に、という話をしたのだった。時間を決めるのをすっかり忘れていた。さてどうするかと返信を考えていると続けざまに通知が来た。
『話した方が早そうなので、電話、かけても良いですか』
確かに電話の方が早い気もする。いいぞ、と手早く返事を返して待っていると、画面が切り替わり着信音が鳴った。
「へいへい、もしもし」
『すみません、わざわざ電話なんて』
「いや、俺こそすまんな。明日の話全くしてなかった」
電話の向こうから聞き慣れた声。遠く感じるが相手は隣の部屋の住人、なんて少し不思議な気分だ。
『朝の時間は新木さんに合わせます。いつも何時頃出てますか?』
「そうだなあ…じゃあ──」
霖のおかげでとんとん話が進み、ひとまず明日は大丈夫そうだ。それじゃあまた明日と電話を切ろうとしたところで霖が声を上げた。
『あの』
「ん?」
『…あ、えっと…』
「どうしたの」
霖にしては珍しく歯切れが悪い。電話越しに小さな唸り声が聞こえた。言葉を探しているのか。
『…今日、"簡単な連絡"じゃなくても良いですかって…言ったじゃないですか』
「?…ああ、俺が聞き返したやつか」
『その時はなんとなく誤魔化したんですが、…その、俺としては、…こういう業務連絡以外にも、』
「以外にも?」
『……あの、…もっ、と…話したい、とか…』
口籠もりながら絞り出すようにそんなことを言う霖。不覚にも可愛いなんて思ってしまった。昼間のはそういう意味だったのか。思い返して少し頬が緩む。
「…ふはっ、何。断られると思った?」
『…良いんですか?』
「良いぞ別に。いつでも連絡してきなさい」
初対面で背後を付け回してきたくせにこういう時は控え目だ。なかなか憎めない性格をしている。
『新木さんも、連絡してください』
「はいはい、勿論させてもらいますよ」
心なしか声のトーンが明るくなったような気がしたが、何も言わずに平静を装う。今日一日で色々な霖を見る事が出来て、少し得した気分だ。最後に短く挨拶を交わし電話を切る。その後すぐに霖からおやすみなさい、という短文と絵文字が一つ送られてきた。
「…さっき言っただろうが」
思わず呟きを零し、俺も同じように挨拶と絵文字を送信して画面を閉じた。
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