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茜 2
明け方、車で家に帰る。自分は街の中心部から郊外へ・・・世の中が起き出す時間に僕の一日が終わる。何から何まで逆行している自分に少し安心しながら、車を走らせる。
本当はわかっているんだ、こんなんじゃいけないってことを。
でも・・・まだ、どうしようもない。
生まれた街は日の出が早かった。たぶんこの時間ならもう夜が明けているだろう。
ここはまだ薄暗い。明るくなる前に寝てしまいたい…
オートロックのカギ穴に鍵をいれて中に入り、エレベーターに乗って3階で降りる。
やっぱり・・・だ
エレベーターの脇の非常階段のドアが開いている。ご丁寧にブロックをストッパーがわりにして。オートロックの意味がないだろう、まったく。都会でこんなことをしたら大変だろうに。
最初は腹がたったけれど、もう何も思わなくなった。不審者が入ってきたって別に僕にはどうでもいい。それで僕に何かあったら、それはそれで解決になる、色々と。
自分の部屋の前で心臓がひっくりかえりそうになった。
ドアノブに白いビニールがふら下がっている。
まったく心あたりがない。ポストでもなく、ドアノブ。
この建物の人間だろうか?でもここは名ばかりのオートロックだし、誰でも入ってこられる。
おそるおそる人差し指で口を広げて中をのぞくとリンゴが3つ入っていた。
「茜だ…」
それは僕の生まれた北海道で採れるリンゴだった。小学生の頃リンゴ狩りにいったから覚えている。
あの頃は自分にも家族があったのに。
ドアノブから袋を外すと紙切れが見えた
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この間は迷惑をかけました。ちょうど実家から送ってきたので、おすそわけです。
402 三田
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綺麗な字だった。顔と同じくスッキリした書体で書かれた文字。
あの人三田っていうのか。実家からか…同郷さんってことだね。
やっぱり、どんなに遠くまで来ても僕は逃げきれないんだ。
逃げきれないことは薄々わかっていたのにね、本当は。
ベットに転がってテレビを見ながら茜をかじる。赤い皮と白い果実。
酸味のきいた小ぶりのリンゴはどんどん小さくなっていく。
リンゴをかじりながら『イッテラッシャイ』というアナウンサーの声とともに、僕は眠りにつく。
目覚めないことを祈って…
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