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再会

15:00すぎに目をさまして、簡単な食事をつくる。最近1食しか食べていない。 あんなに食べることが好きだった、作ることも好きだった。 理由は分かっている。自分のためだけに一人で食べるのは楽しくないし美味しくないからだ。 一緒に…食べたことを思い出したくないからだ。 テーブルの上のリンゴ。 お返しをするべきだろうか?お返しといっても、僕の家には何もないし、買うにしても何がいいのかわからない。それに、玄関に転がっていたことのお詫びだから、お返しはかえって変だろうな。 たぶん顔を合わせることはないとおもうけれど、エレベーターで乗り合わせるとか、駐車場であったりしたらお礼を言えばいい。 そして気がついた。 世の中と真逆の時間に生活している僕は、すれ違う事だってマレなんだ。 21:30 時計代わりのテレビの隅で、僕が動く刻が告げられる。 ジーンズにTシャツ、サッカー地のシャツをつかんで家をでた。 真っ暗の外を駐車場に向かいながら気がつく。この暗さにも慣れた…。 この街は街灯が少ない。道がくらいのだ。 運転するのも怖かったものだが、人間は適応していくものなのだろう。 もう街灯の明るさを思い出せなくなっている僕。 抱えて生きていくことにも慣れるのかな? いや、消えてしまってニ度と存在しなくなればいい…現実はそんなにうまくいかないから僕の中にいる「それ」は息をし続ける…残念ながら、ほんと残念だ。 車のドアロックに鍵をさしこんだら、眩しい光とともに車が一台入ってきた。 このマンションにはいったい何人の人が住んでいるのだろう? エレベーターや入り口で顔を合わせれば挨拶はする。 でも誰ひとりとして顔を覚えていないー条件反射の挨拶。 車の窓があいて、僕に向かって声がした。 「あれ?302の人だね。」 暗闇の中をライトのおぼろげな反射のおかげで、あの人だということがわかる。 三田さん・・・だった・・・か 「こんばんは。」 僕はそれ以外返す言葉をおもいつかず、何か他のことを言わなくちゃいけないはずだった歯がゆさを覚える…何だった? 「コンビニ?」 確かにこの時間に出かけるのは大概そんな理由だろう。 「いえ。仕事なんですよ。」 「へえ、水商売にはみえなかったな。」 「…いや、僕…水商売ではなくて。」 「ふ~~ん。」 たよりない光の中で互いの表情を読み切れないまま、ぎこちない会話が途切れた。 毎日沢山の人と言葉を交わすけれど、誰とも会話をしていないから話し方を忘れている…なんだか急に恥ずかしくなってきた。 あ、そうだ!リンゴだ! 「あの、ありがとうございました、…茜。」 「ん?いや、なんか少なくてごめんね。」 「いえ、おいしかったです。」 うん、おいしかった。赤い皮と白い果実。明け方の薄暗い中でもその色は綺麗だった。 「青森のフジとかさ、あのへんには負けちゃうんだけど、なんか食べたくなるんだよね。 実家から送ってもらうんだ。茜って?もしかして北海道出身?」 いつもの時間より3分おしている。余裕をもって出ているから遅刻にはならないけれど、このあたりが潮時だ。僕には誰かと話すだけの準備がなかった。 「ごめんなさい。仕事に遅れるので…リンゴありがとうございました。それじゃ、また。」 僕はそそくさと車にのりこみエンジンをかける。 軽く会釈をして車を出した。 久しぶりに誰かと話しをした僕は自分の心が浮き上がっていることに気がついてしまった。 それは自分が誰かとのかかわりを 本当は誰かとの接触を望んでいるということだ。 それが本音だという事実は、僕にとって手痛い現実だった。

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