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そしてふたたび
週に2回くらい、僕は駐車場で三田さんと挨拶するようになった。
三田さんはいつもスーツを着ているから、たぶん仕事帰りなんだろう。
「今日も暑かったですね。」
「お疲れ様です。」
「いってらっしゃい。」
「どうも。」
そんなあたりさわりのない言葉を交換する、ただそれだけだ。
そういえば僕の名前を三田さんは知らないだろう、聞かれてもいない。
僕は「302」
番号・・・囚人みたいだよね、まあ実際がんじがらめだから同じようなものだ。
僕の休みは月曜日。月曜の明け方に家にもどり、次に出かけるのは火曜日の夜。
この月曜の夜をもてあます。
寝てしまうと火曜の勤務がきつくなるから、何かしらして起きていなくちゃいけない。
ケーブルの番組もリピート放送が多いから飽きる。今週はDVDでも見ようか。
そうだな、飲み物を買ってDVDをみることにしよう。
日曜の勤務を終えてレンタルショップに立ち寄る。さて何を見るべきか…
アクションものは嫌いじゃないけれど、あえてみるほど好きでもない。
恋愛ものもしっくりこない。海外ドラマ?ケーブルでそのうち放映される。
結局いつものパターンに落ち着く。
まったく知らない作品ではなくて、前に見たことのあるものを借りる僕。
できれば知らない映画は映画館でみたい。しばらくいってないな…
ふと思いついた。M・ウィンターボトムにしよう。
店内を歩き回ってみつけたのは「I WANT YOU」「CODE46」の2本だけ。
途中T・ギリアムの「未来世紀ブラジル」があったけど、絶望しながら聞く「ブラジル」の音楽を思い出したら気が滅入ったのでやめた。
隣のマックスバリューでワインを買って車に乗る。
本当に誰とも話をしない、僕の週末がやってくる。
月曜0:00すぎ、しぼるように一人で涙を流していた。
コステロの歌声が頭の中をグルグルまわる。
「I WANT YOU」は前に見た時よりも僕の胸を揺さぶって心臓を握りつぶしたから。
感情がざわめきすぎて何だかよくわからなくなって、どうにもできなくなって、ただただ…泣いてた。
ワインとの組み合わせのせいも、あるかな…
まだ夜は長いのに疲れてしまった。「CODE46」をみることができるだろうか。
T・ロビンスの「I LOVE YOU」に耐えられるかな
S・モートンの「I MISS YOU」に正気でいられるかな
とりあえず顔をあらってソファに横になる。
ウィンターボトムが監督した映画を見ると、なんでいつも心臓が痛くなるのだろう。
それがわかっているのに、僕はこの人の映画が好きだ。
あの人は…好みじゃないって言ったっけ。変な映画だなって、そう言った。
色々なことを忘れていくのに、俳優の名前がでてこなくなったりするのに
忘れてしまえないものがある。選べたらいいのに・・・忘れるか、留めるか
忘れるという選択をするだろうか?
できるだろうか?
忘れたいと思っているのだろうか?
ガチャ、ガチャ
内面に沈んでいた僕は音で現実に戻った。
ガチャ、ガチャ
止まっては思い出したように鳴る鍵穴。
今度は迷わず玄関に向かった。
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