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4:00すぎ 僕はまた脱力してソファに横になる 疲れた・・やっぱりウィンターボトム2本はキツイ ワインは2本目が空になった 三田さんは何時に起きてくるのかな?僕は6:00すぎには眠りたい なんだか不思議だ この空間に誰かと二人だなんて、ここに誰かがくるなんて、この街にきて初めてのことだ ネット回線の人と家電の配達の人達以外は オチにもならないくだらない引き合いを持ち出して自分で可笑しくなる まあ、ワイン2本なわけだし、読みかけの本に手をのばして僕の休日の残りを過ごす パタン はっとした 手から本が落ちた音だった。読みながら眠ってしまったらしい 空のボトルの横で、ワインが少しだけグラスに残っている。あくびがでた テレビをつけると6:00を少しまわっている あ、そうだ、三田さんに起きてもらわないと 寝室にいくと汗だくで丸まっている三田さんがいた。 ほらね、スーツ、着たままなら大変なことになっていたじゃない? 「三田さん・・・もう帰らないと」 僕はこの人の肩をいつもゆすっている 骨ばった固い肩・・・男の、肩 「暑い」 小さな呟きとともに目が開いた。惚けた後、目に力が宿る 「おはようございます」 三田さんは、まるで何が起こったのかわからないという顔で僕を見つめている まあ、気持ちはわかるけれど。裸で横に寝ているわけじゃないのだから、そんな顔をしなくてもいいのに 「朝です、6:00をまわりました。そろそろ起きて上に戻らないと、今日の仕事に差し支えますよ」 三田さんの顔の、色々なところが動く。目が、眉間が、唇が。 めまぐるしく寝起きの頭の中で色々考えているらしい様子が見えて、僕は笑ってしまった 「また一つ階を間違えて僕の部屋の前にすわっていたんです。 水がほしいというので麦茶をあげました。 起きるそぶりがなかったので、勝手にスーツは脱がせました。スーツがクタクタになるのは嫌いなんです。あ、ハンガーごと持って行ってください。出勤は何時ですか?」 「あ、あ~。10時までいけばいいんだけど、あ、なんか、ゴメン。いや、なんか迷惑かけて…」 心底困惑して申し訳なさそうな三田さんを見て、なんだかさらに可笑しくなって僕は笑う。 「いえ、いいですよ。僕も休みだったので。」 ようやく三田さんは起き上がってあぐらをかいた 僕は三田さんを見降ろしている、しょうがない。なんだか居心地が悪いけれど 「ほんと、ごめんね。302・・あ、ねえ、名前なんていうの?」 「僕?」 「そ、僕以外誰がいる?」 三田さんは眠そうなのにスッキリした切れ長の目で僕を見上げた 「さわだ、沢田です」 「ふ~~ん」 ふ~~んってなんだろう… 「俺、あつし。平敦盛の敦」 タイラノアツモリ?あ、なんとなくわかる。ミタアツシ・・・か 「で?名前は?」 さっき言ったよ 「沢田ですよ」 「だから、下の名前」 改めて聞かれるとなんだか恥ずかしいけれど、先に言われてしまっているから言わなくちゃいけない 「いくと。郁は有にこざと、とは、北斗の斗」 「ふ~~ん」 ふ~~んって… 「よかったよ、いつまでも部屋番号で呼ぶのも失礼だって思ってたとこだったからさ。 あ、でも、この状況は随分迷惑かけてるね…」 「いえ、いいです。僕がここまで運んじゃったんですから。三田さんが申し訳なく思う必要はないですよ。これ、このまま持って行ってください」 僕はハンガーごとスーツを差し出す 三田さんは困ったような、そして可笑しそうな顔をしている 「Tシャツとトランクスで皮靴はいてさ、片手にスーツ持ってたら、絶対笑われると思うんだけど」 確かに・・・。僕は笑いがこみあげてきて、我慢ができずに笑い声をあげてしまう 「いつもあいている非常階段から登ればいいですよ。まだ薄暗いから。」 三田さんはベットから起き上がって僕の手からスーツを取る 「ありがと、郁は笑っているほうがいいよ、断然」 僕の周りで時間が止まる 玄関のドアが閉まる音 でも僕はまだ寝室に立ったままだった 誰かと笑い合って 僕の笑顔を認める相手がいる 誰かによって自分が存在していると感じたのは・・・2年ぶりだった

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