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約束
「郁?」
駐車場で車に乗ろうとしていた僕はびっくりした
名前を呼ばれた…
振り向くと、三田さんが僕を見ている
「あ、こんばんは」
少し声が震えてしまっただろうか?
「このあいだはありがとう。なかなか会えなくて」
そう、三田さんが汗だくで僕のベッドで目を覚ましてから、3日たっていた。
今度はリンゴもぶら下がっていなかったし、何も音沙汰がなかった。
僕は少し怖くなっていた。
誰にも知られずにひっそりと暮らしていて、自分とだけ対峙して自分を守っていた。
その中に誰かが存在すると・・・それが壊れそうだったから。
実際三田さんと過ごした時間は久しぶりの他人とのかかわりで、それは思っていた以上に魅力的だったせいもある。
本当は少し期待していた、リンゴじゃなくても何かぶら下がっていることを
でも、ドアには何もなかった。少しだけ、寂しかった
「あ、いえ、そんな気にしないでください」
「いや、気にする」
三田さんはにっこり笑って言った
「いえ、そんな…すいません」
「ふ~~ん」
ふ~~んって・・・。
「あのさ、お礼に奢るから。今度いつ休み?」
それはリンゴどころじゃない申し出だった。でもどうみても僕と三田さんの時間は合わない。
休みも合わないはずだ…。
「僕の休みは月曜日です。」
一瞬考えるように視線を脇に逸らせた後、また僕に戻る
「あ、そっか。あの日休みだって言ってたな。たぶん21:00すぎには帰ってくるから、電話するよ。下に降りてきて。道路一本向こうの居酒屋にいこう」
具体的な提案がされて、正直驚いた。なんだか断れない。名前を聞かれた時と一緒だ。
先に言われたら、応えなくちゃいけない、そんな気にさせられる。
「あ、わかりました。なんだか申し訳ないですね」
「郁?おしえて」
「え?何を」
「電話」
僕はゴソゴソと電話を取り出した。買って2年だけれどピカピカのまま。メモリーは数件。
会社からの連絡以外鳴ることがない
「赤外線とか、よくわからなくて…番号言います」
番号を呼び出す。自分の番号を空でいえない。
うっかりすると前に使っていた番号を言いそうになる。
僕が番号を伝えると、少し間があったあと電話がなって切れる
「郁、それ俺の番号。ちゃんと登録しておいてね。悪いね、出勤前に呼びとめて」
そのまま手を振って駐車場から出て行った。
僕はこの街にきて初めて他の誰かと時間を過ごす。
土・日・月と過ごしたら、月曜の夜は三田さんと居酒屋にいく
怖くて、でも嬉しい
そうか・・・僕は嬉しいのか…
夜の街を走りながら、自分の心と向き合う
嬉しさのほうが強かった
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