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向かい合う 1
「とりあえず、お疲れ様」
三田さんとジョッキをカチンと合わせる
「郁は何か食べた?」
「いえ、食べてません」
「食べたいものある?」
いつものように15:00過ぎに起きたけれど、テレビを見ながらニ度寝をしてしまった。
目が覚めたら19:00過ぎで、あわてて掃除と洗濯をした。
三田さんが帰るであろう時間が差し迫り、冷蔵庫にあったトマトをかじっただけ
食べたいもの?なんでも食べられそうだ
「白身の刺身と枝豆かな」
三田さんは僕の顔をみて少し眉間にしわをよせる
「もしかして郁って・・酒飲み?」
「どうなんでしょうね、でも好きですよ」
「ふ~~ん」
誰かと向かい合って座っているという居心地の悪さ。
くすぐったいようなそれは、心がざわめく。
本当のところ、居心地が悪いわけじゃない・・・自分の高揚感に自分が振り回されている。
「この間は本当にありがとう」
ジョッキを置くなり、そう言われて面食らう
「いや、そんな大したことじゃないし、こんな風にお礼をされるのも…と思って…」
僕は僕なりに考えるきっかけにもなった。そして避け続けた「かかわり」を今持っている。
三田さんがドアをガチャガチャさせなければこんなことは起こらなかった
「俺24歳、郁はいくつ?」
驚いた…24歳?僕の顔を見て三田さんも驚いた顔をしている
「まさか、まさか俺より上?」
少し上だと思っていたのに、三田さんは僕より2コ下だった…
「てっきり、三田さん僕より上だと思ってた」
「俺も、郁は同じか下だとばっかり。それなのに俺が呼び捨てで、郁がサン付けって変じゃない?」
僕は正直困った。アツシとか呼べないし、敦君?三田君?三田? どれもなんだか気恥かしい。
「三田さん以外にしっくり、まだこないんですよ。人見知りだし」
「ふ~~ん」
「三田さん、よくふ~~んっていいますね」
「ああ。なんかね言うみたい。郁はビールでいい?」
「はい」
運ばれる料理をつつきながら、ビールを飲む。
僕は忘れていた時間を思い出していた。よく飲みにいっていた、よくいっていた・・・
「郁は最初怖い人かと思ったけど、全然違うね?」
僕が怖い?三田さんは頬杖をついて割箸の入っていた袋をいじっている
「ちょっとアンタ!とか言ってたし」
「ゴミを捨てたかったから」
「ふ~~ん」
僕はクスっと笑う
「なに?」
「またふ~~んって言いました、三田さん」
僕達の会話は中身がまるでないかわりに、とても穏やかだった
いや、僕の心が穏やかだったというのが正解
「俺さ、酒そんなに強くないんだ。で、やりきれない時に飲むと回るみたいで」
何がやりきれない?と聞こうとして踏みとどまる。
それを聞いてしまったら、自分のことを言わなくちゃいけない
「そうだね、そんなこともあるんだろうね」
当たり障りのない返事
「雪が降らない土地ってどんなんだろうって思ってさ。ここに来たんだ、俺」
「そうなんですか」
「うん、冬に外で寝てても死なないし、冬でも畑で作物が採れる。
そんな土地で暮らしてみたかったんだ。郁はなんで?」
僕?逃げてきたからだよ。でもそんなことは言わない
「テレビ局が少ない土地に住んでみたかったから」
「へ?」
ふ~~んって言わなかった。
「福井県かここか迷って、でもここの方が未知だったから。雪が降らないし」
三田さんはニヤリと笑う
「民放2局って、まだ他にもあったんだ。」
「ありますね。でも月9ドラマが土4(どよん)なのは、ここだけかもしれませんね」
「ふ~~~ん」
ふ~~んって言った
ひたすらビールを飲みながら、そんな会話を続けた
結局僕は自分のことをほとんど何も言わずに過ごしている
それでいい・・・
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