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写真

三田さんは僕を見据える視線に戻して差し出した 「これ・・・」 このあいだ貸した本がテーブルの上に置かれた 「よかったでしょ?」 言葉は空を舞う 「写真・・・挟まってた」 それだけでわかる 僕の大事な 大事な・・・ その一瞬だった時間が・・・誰かの目に晒された 守ってきたはずなのに! なんで、間に挟んだままだった? 無防備に他人に見せてしまった… 「うん、それで?」 自分でもびっくりするような冷静な声がでた… 「三田さんは僕になにを言いたいの? それでウォッカが1本必要だったの?それを言って僕が喜ぶと思った? あの写真をみて、今度は気持ち悪いって言わない、おあつらえ向きの相手がみつかったって思ったわけ? この写真を見たなら、僕が三田さんのことを気持ち悪いなんて言うはずないよね? なのに、そんな無意味な質問を僕にしたってことだよ・・・。 僕はね、我慢強いほうだけど、バカにされることには、とても気が短くなるんだ!」 「やっぱり・・・郁は怖いな」 半ば予想していたように、半分笑みを浮かべて・・・三田さんはそう言った 「三田さん、僕はね前に進みたいのかどうしたいのかわかっていないし、過去にも自分にもがんじがらめだ。何も断ち切っていないのに・・・何かをする資格はないよ」 カッとなった僕はつい本音を言ってしまう。 僕の言葉は重く漂う 甘えているのは僕だ。 逃げて逃げて逃げられないことに気が付いているのに、逃げ続けていることに溺れて甘えている 三田さんに言うほど僕はちゃんとしていない 自分に言うべきなのに、三田さんに八つ当たりした・・・最悪だ 「俺、帰るね」 バタン 見送るべき背中はもうそこになかった たぶんこのまま、きっと三田さんは僕のところに現れない 『何かをする資格はないよ』 そう思わず叫んだ僕。そうだね、何かをする…それを意識した人間じゃないと言うはずのない言葉だ… 三田さんとなら、前に進めるかもしれないと思ったのか? 三田さんが、隠れていた僕を明るいところに引き上げたから? 子供みたいに・・・僕の前で笑ったから? 「郁、笑ってるほうがずっといい」油断ならない一言 「郁、飲まないか?」不安そうな顔 僕もこのまま三田さんの前に出られない 逃げてきた理由を三田さんは僕に言った、でも僕は言っていない あの人の所に僕は自分を残したまま、逃げてきた 三田さんに偉そうな口をきけるような立場じゃない そうだね、置いてきたままの僕を、取り戻さないといけない 前に進む・・・そう。進もう 僕は・・・僕を取り戻す 本に手を伸ばす ページに埋もれた写真 隅っこの僕、あの人しかみえていない僕 無邪気な二人、隅っこの二人だけの世界… 「さち?」 『おにいちゃん・・・・?』 「・・・うん。あの人は…大丈夫?」 『・・林さんは・・・仕事をやめて。小さいカフェをしてるよ』 「そう・・・なんだ」 『たまにお兄ちゃんの事を聞かれる』 「・・・そう」 「沢田」そういって目じりをさげて笑う顔が蘇る 僕の好きな・・・顔 「ちゃんとしようと・・・思うんだ」 『・・・うん』 「手紙かく・・・届けてくれるか?」 『うん。わかった』 「ありがとな・・・。ホントはさ、消えてしまいたかったんだ。 でも今、あの時お前がきてくれて・・・よかったと思えるようになった・・・」 『・・・ん』 「さち・・・ありがと」 『・・・ん』 電話を写真の横に置く なんてことのないことを誰かと笑いあいたい・・・ 懐かしい街並みの中にいる自分を見たい・・・ 一人でいることが僕にとって大事なことだったはずなのに 時々とてつもなく孤独な自分を思い知って・・・なんだか泣きそうになる ・・・三田さんのせいなのだと思う 自分以外の誰かと関わってしまったから、僕はより「一人」なんだということに気がついてしまったのだ。 ウォッカ一本と引き換えに自分のことを話した三田さん 僕はそれすらもできていない だから、一人なんだ・・

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