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評価
「沢田さんさぁ、辞めるとか言わないよね?」
「あの・・・辞めそうに見えますか?」
帰る間際にマネージャーに呼び止められる。
確かに毎日自分の気持ちがどこに向かっているのかわからず悶々としているけれど、仕事においては悩みがない。むしろ充実しているといってもいい。組織の中にいる自分と役割を得て居心地がいいとさえ思えてきた。
あれほど避けてきたコミニケーションも少しずつ取り始めた。
職場で僕は少しずつ存在しはじめているし、そんな手ごたえがある。
「まだ移ってきてそんなにたってないけど、マネージャー候補として人気急上昇中なんだよね。だから俺の下にいる間に辞めさせたりしたら、とんでもないことになりそうだから
先にクギさしておこうと思ってね。」
のらりくらりと軽い口調で話すけど嘘は言わない人だ。
相手の勢いに負けて、つい出来ないことまで出来ますと言ってしまう人が多いのに、この人がそんな事を言ったのを聞いたことがない。どちらかというと僕も出来ないと言うほうなので、似ていると言えば似ている
あくまでも、電話対応の面だけだけれど
「辞める前にはちゃんと相談しますよ」
「うわ、絶対止めてやるからな」
僕の肩をポンと叩いてマネージャーは階段を下りて行った
自分の心だけが堂々巡りをしているだけなのかもしれない
僕はまだ前に進める、そんな気持ちが少し湧いてきた
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