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予期せぬお客さん
出しかけた手をひっこめる
三田さんが僕を抱きしめていなくなってから、何度も電話に手をのばしては引っ込める
・・・この繰り返しだ
『少し時間がかかると思うけど・・・』
確かにそう言った。そしてそれは少しじゃないはずだ
ある程度の時間・・・だと思えた
また僕は一人で過ごす時間だけになった
ひとつ上にいる三田さんは姿を見せない
家を出て帰宅して・・・眠りに落ちるまで、心のどこかで待っている自分をもてあましていた。
抱きしめられた腕を思い出す
相手の背中に腕を回すことすらできなかった自分を思い知る
そうやって毎日がすぎ、DVDとワインと過ごす休日がめぐって・・・また時間が流れる
ピンポーン
ピンポーン
僕はインターフォンの音で目が覚めた
転げるようにベットからでて玄関にむかって足を速める。
三田さんだ・・・絶対だ。
ドアスコープを覗いて相手を確かめることもせず勢いよくドアをあけた
そこには静香さんが・・・立っていた
希望と期待は記憶と同じ光景に打ちのめされて、時間を遡る
ほほ笑みながらドアを開けたのに、そこには女性が立っていて
投げつけられる視線の冷たさに動けなくなった自分が甦る
「敦いるんでしょ!」
僕の脇を通りぬけ声とともに背後に消えていく姿を意識しながら、僕は懸命に「今」にしがみついていた
「いきなりで申し訳ないと思ったんだけど、ここしか思いつかなかったの。それで・・・敦はどこにいるの?」
背後から聞こえた声に向かって、僕はようやく視線を向ける
そこには人の部屋にずかずか上がりこんだくせに、やけに心配そうな顔をした静香さんがいた
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