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予期せぬお客さん 2
「迷惑ついでに悪いんだけど・・・ビールか何か・・・ないかしら?」
ビールはなかったので、グラス2つにワインをついでテーブルに置く
「朝なのに・・ごめんなさいね」
それっておしかけてきたこと?それとも朝から酒を要求したこと?
「昨日仕事から帰ったら宅急便がきて・・・。敦からで・・・上にあった私の荷物が全部送られてきた」
色々・・・置いてあったんだ・・・
「急いで部屋にいったら・・・鍵もあいていて、そして中はからっぽ。敦どころか荷物もなかった」
「え?」
からっぽって?からっぽ?
「そんな顔するってことはあなたも知らなかったってことね。そっか・・・。
ボトルの中身まだあるのなら、おかわりもらってもいい?」
ぐいっとワインをあおった静香さんの頬に涙がこぼれた
何をどう切り出していいものかわからない僕と、入ってきた勢いを失った静香さん。
僕ら二人は互いにきっかけをつかめず、ただただワインを無言で飲み重ねた。
グラスがあくと、自分でつぐことを繰り返す
あの時もこうやっていれば、互いに飲むことができれば、あんなことにならなかったかもしれない。
そんなどうしようもないことが浮かんでは消え、三田さんや目の前の静香さんの存在を認めて、またあの日に戻る
そんな堂々巡りをくり返して、少し酔い始めたことを自覚する
「敦なにもいってなかった?」
ほしかった声が聞こえて、僕はようやく静香さんの視線を捉える
「ちゃんとするって、そう言ってました。でもいなくなるとは言ってなかったし。
ちゃんとの意味もよく・・・わかっていなかったようです、僕」
「あなたに初めてあったとき、わかったのよ。いよいよ手詰まりだなって。
部屋がカラッポだってわかって、すぐにここに来た。でも敦はいない・・・あなたしか居なかった。」
「静香さんが思っているようなことは何もないですよ、僕と三田さんの間には。手詰まりって・・・言われても」
ほんと・・手詰まりって。僕がいつ王手をかけたっていうんだ?
一手だって迷っていてさせていない状態だったというのに
「ドアを開けた時は少し微笑んでいたくせに、私の顔を見たとたんに死にそうに青くなる顔をみて敦がいるのかと思ったのよ。確かに不躾だったけど、あんな顔しなくてもいいのに」
自分でワインを注ぎながら静香さんの放った言葉に僕はうろたえる
だってね、同じだったんだよ・・・あの時と
「あなたがどこまで知っているかしらないけれど、敦がここにきた頃はヤケクソな男になっちゃってて、私の知っている敦じゃなかった。だからそこにつけこんだ・・・
大学時代のキラキラしていた敦が戻ってくることを願っていたけど
反対にこのままダメ人間でいれば私の傍にいるだろうとも思っていて。
働くようになって少しはマシになったけど、サボリ癖はあるし、できない人間じゃないのに腑抜けたまんま。
飲んだくれて正体なくしたり。
まあでも、急に押しかけてきて朝から酔っ払っているんだから、私も同レベルね」
そうだった。僕の家の前に転がっていたんだ、三田さん。お礼に茜をくれた・・・
「少しだけ敦が戻ってきたかもしれないと、そんな感じがしていた時、敦の部屋であなたを見た。
結局私は敦を元にもどすこともできないし、一緒に先に進むこともできないんだって・・・打ちのめされた」
僕だって何もできていないよ。結局三田さんは僕の前から姿を消した
色々なことがどうでもよくなって、誰かにぶちまけたくなった。
ちゃんとするからって姿を消すなんて聞いていないし、それをよく知らない人間から聞かされて面白くない
「僕にだって事情があるんです。別にあなたから三田さんを盗ったわけじゃない。
そもそも何も起こっていないんですよ?それに男同士をつかまえてどうのこうの言われても」
僕は寝起きのワインが回ってタガが緩んできた
「少しくらい敦のこと聞いているでしょ?なんで此処にきたのかも。
別に相手が男だからって隠さなくたっていいし、不幸ぶる必要もないでしょう」
不幸ぶる?どういう意味で何もしらないくせにそんなことが言える?
好きな男に振り向いてもらえなくて、この世の不幸みたいな顔しているあなたに何がわかる?
「何も知らないくせに簡単に言わないほうがいい」
芯の部分から冷たい僕が起き上がる
「さっき僕が真っ青になったのは、過去に同じようなことがあったからだ。
今回違うのはあなたは僕に危害を加えていない。」
「なにかされたの?」
ワイングラスの足を人差し指でなぞりながら話していた静香さんが僕の顔をみる。
眉をひそめていぶかしげに視線を向ける表情は、底に沈めて押さえこんだものを引きずり出すには充分だった
もう止まらない。ぶちまけてやる、僕の方が不幸だ。
それにほとんど知らない相手だからこそぶちまけてもいいと思えた。
相手を気遣う必要もない。
気まずくなっても何も差支えないし、僕も困らない。
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