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つかむ未来 2

僕は5分ばかり遅れて会議室に向かった。 こっちの都合に合わせて電話が鳴りやむことなんてない。 フロアにはサポートが入っていたので、僕らが抜けても問題ないだろう。 軽くノックをしてドアをあけた。 「すいません、遅くなり・・・まし・・・た」 「エスパブリックの三田です。宜しくお願いします」 僕に向かって立ちあがり名刺を差し出す相手は、三田さんだった。 どうしてこの人は僕をこんなに何度も驚かせる? 玄関をガチャガチャいわせたり、茜をぶらさげた そして僕を抱きしめていなくなった また、何も用意をしていない僕の前に突然現れる。 背中に腕を回すことすらできなかった・・・あれから随分待っていたのに 「待っていた」すら言えないような状況で顔を見せる 今度逢ったら、言おうと思っていたこともあった 何をいってくれるか、色々想像した そして自分の欲しい言葉を何回も胸の中でくり返した それなのに肝心の相手は自分に向かってビジネスライクな挨拶をしただけだ。 思い出す顔はいつも笑っていたのに、目の前にいる男はまじめな顔でつったっている。 「じゃあ、はじめよっか」 五十嵐さんの声を聞いて我に返る。そうだ、今は仕事だ。 「仕事」その言葉は僕を強くする。 そうじゃないとやっていかれなかった。そうじゃないとあの人と一緒になんかいられなかった。 今僕は「郁」になっている場合じゃない。沢田Mgの自分に為り変わる 名刺を交換してイスに座る。 「えと、こっちは社内イチオシの沢田Mgです。御社のオシメンとかいう企画水準には問題ないでしょ?」 ディレクターの能天気な言葉 「はい、まったく。」 三田さんの平坦な声 僕は三田さんと本当の話をしなくちゃいけない。 だから、そんな前置きはいいから話を先に進めてほしい。 「てっきり五十嵐さんが担当されるとばかり・・・」 「三田さんもそう思います?自分もそのつもりだったんですけど、社内的に承認もらえなくて。 笑うしかないですよ」 ・・・事前に僕だということを知っていたわけではないんだ。少しほっとする。 「実際はこのような記事になります。ナビゲーター的な役割が沢田さんです。」 三田さんが企画趣旨と記事内容に関しての説明をしはじめた。 「えっと、じゃあ実際記事のつくりこみは『エスパブリック』さんがやってくれるわけですね?」 僕は三田さんの名前を呼べなくて、打ちあわせ中、延々会社名を連呼した。

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