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つかむ未来 4

「本当はこんなんじゃなくて、ちゃんと準備万端で郁の前に現れるつもりだったのに・・・。 格好悪いよな。五十嵐さんがいてくれて助かった。じゃなかったら俺、仕事の話なんかできなかった」 僕の知っている三田さんだった。少し子供みたいで、僕より年下だと実感できる姿。 「僕だって驚いた。いつも驚かされる」 どこに引っ越したの?まだ準備万端じゃなかったの?今日のタイミングがダメだった? ・・・僕に・・逢いたかった? 偶然じゃなく、見つけてくれる気持ちはあった? 僕は君に聞きたいことが沢山あって、そして言ってほしいことも沢山あって なのに全部喉の奥で止まってでてこない。喉の奥が押しつぶされている 「俺、ちゃんとしようって本気で思ったんだ。静香に甘えてるって、郁言っただろ。 それ聞いて、郁にも甘えてるって気がついた。 自分がどう思っているかちゃんと伝えたかったのに、ズブロッカの助けをかりたあげく結果は散々だったり」 覆っていた両手がようやく下がって、眉間にしわをよせている顔が見えた。 「少し痩せた?」 思わず言ってしまった。 難しそうにしていた表情が一瞬で歪む。両手がまた覆って、泣き出しそうな顔が見えなくなってしまった 「郁、どうしてそういうこと言うかな。全部決壊するとこだった・・・。ほんと」 ふーっと深いため息がひとつ ようやく両手が下ろされた。 「俺ね、郁に釣り合う人間になろうって思った。傍にいたら変われないのは明らかだったから離れたんだよ。大きな賭けだったけど、そうするしかないって結論にいたったんだ。 それで、自分の企画をひっぱりだして精査して、これにいきついた。」 「釣り合うって・・・僕だって同じだよ。何も整理できていなかったし、自分のことを棚にあげて八つ当たりした」 「整理できた?」 えっと・・・。前にすすめるようになったよ。 そう言おうと思ったのにさえぎられる 「いや、今は俺の話をするんだった。 大手の求人フリーペーパーが休刊になったし、求人雑誌は1誌しかないだろ? そして毎週掲載されている企業が結構あるんだよ。 つねに募集が必要ならなにも週刊じゃなくたっていいだろうって。」 そうだね、この会社も毎月面接して毎月研修して、日々辞めていく人間と入ってくる人間がいる。 「限られた紙面じゃ業務内容もきちんと説明できないしさ。 じゃあ、記事ものにしちゃえばいいわけだし。 埋まらない広告の営業するくらいなら、有意義なものにして結果お金になるほうがいいって思ったわけ。」 「でもこれタダでしょ?さっき費用の話は何もでていなかったよね」 「そ、最初はタダ。で、希望する企業は契約してもらって掲載を続ける。 ネットでバックナンバーを見られるようにすれば紙面を必要以上にさかなくていい」 「契約につながってるの?」 「うん。ほぼ全部の企業さんが契約してくれてる。 今、付録の冊子や袋とじなんかで特集組もうかって話がでたとこ。」 「確かに理にかなってるね。でもオシメンってのは?。だって一押しメンバーな意味なのに」 「一押しのメンズってことだからさ。ちっちゃく(ズ)ってついてる」 「ふ~~ん」 三田さんが可笑しそうに笑う。 「郁、俺の専売特許だよ「ふ~ん」は」 「ふ~んって便利だね。初めて気がついたよ」 ようやく少しだけ僕らの空気が戻った

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