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つかむ未来 5(最終話)
「静香さんには連絡してたの?」
「なんで?」
「なんでって・・・心配するだろうから」
「月に1回程度メールのやり取りがあるくらいだよ。全然逢ってない。新しい住所教えてないし」
ほら、やっぱり静香さんは知っていたんだね。あとで白状させよう、そう考えたら自然に笑みが浮かぶ
「郁?」
少し不安そうな顔。静香さんのことだ、僕と逢っていることは言ってないはずだ。
「いや、僕だけ連絡もらってなかったんだなって。
静香さんも僕には黙っていたから後で問い詰めてやろうと思ったら楽しくなっちゃって」
「静香がなんで?問い詰めるってなに?え?」
「あれ?静香さん言ってなかった?僕のうちで朝まで過ごすのが恒例なんだ、静香さん」
「なんだよ。・・・。それ。ちょっとどういうことだよ!」
いきなり立ち上がったので椅子が後ろにひっくり返る。
僕は立ちあがって椅子をもとにもどしたあと、書類を片付け始めた。
「郁、俺…聞いてるんだけど」
初めてみる怖い顔
「悪いんだけどもう時間がなくって。昼を急いで食べて戻らなくちゃいけないんだ」
「打ちあわせは終わった!でも肝心なことは何も話せていない。
それに静香がなんで郁と逢って・・・泊っていくって・・・なに?」
僕をたくさん待たせたから、少しくらい意地悪したっていいじゃないか。
君を待っていた、郁って呼んでほしかった
見つけたよって照れくさそう笑ってほしかった
ずっと願ってた
「そんなに時間はとれないけど、お昼一緒に食べようか。向かいの定食屋が割とおいしいんだよ」
欲しい答えがもらえなくて仏頂面をして黙りこくっている。そんな顔も初めてみた
「一緒にいかないの?敦」
「いかなっ・・・・え?今なんて?」
「そんなに時間はとれないけど、ご飯を食べようって」
さっきまで青白かった肌はいっきに首まで赤くなった。そんな君も見たことがなかった
「いや・・・じゃなくて・・・」
僕はずっと心のなかで呼び続けていた
いつの間にか名前が当たり前になっていた。
君はそばにいなかったから、知らないだけなんだよ?
「ほら、いくよ?」
僕は右手を差し出す。壊れ物を触るみたいに伸びてきた手のひらに包まれる。
「まずっ、俺泣きそうなんだけど」
何度も何度も繰り返し、沢山の言葉を積み重ねて決めていた言葉を言う。
「おかえり、敦・・・。ずっと待ってた」
僕は突然腕の中に包まれる。前と同じく唐突だったけれど、何度もそうしてほしいと願ったことだったから今後は腕を自然にまわすことができた
小刻みに震える背中をゆっくりさする
「そんなにしがみつかなくても、僕は逃げていかないよ?」
僕はたくさん話したいことがあるんだ
聞いてくれるかな?
「郁、何時に仕事終わるの?」
「たぶん・・・18:00すぎかな」
「あのさ、迎えにくるから。そして俺の家に来てくれないかな」
どんな顔して言ってる?敦。僕は君の顔がみたいけど、たぶん真っ赤だろうね
そして僕に逢った時に言おうと決めてた言葉なんだね
「うん、じゃあ、待ってる」
「俺・・・郁にたくさん話たいことがあるんだ」
うん、わかってる
僕らには話すことがたくさんある
「そろそろちゃんとお互いの話をしたほうがいい頃だもんね。でも・・・」
「わかってる。ズブロッカはナシで・・・」
僕は愛しい年下の君に唇を寄せた
僕らの初めてのキス
そして僕らのスタート
僕は真ん中で生きていく
敦、君とならできると思うんだ・・・。
END
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