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雨の先・・・そして 2
「今年の慰安旅行、宮崎だってさ」
出社すると隣のデスクの山田がのんびり言った。
「なんで今さら宮崎なんだ?なんだっけ?あの県庁だっけ?いないんだろ?知事」
「いや、知事はいるよ?東国原じゃないってだけで。総務の担当者がサーファーらしくてさ、それで決まったらしい」
「へえ」
慰安旅行か。できるなら不参加でお願いしたいが、そういうわけにもいかない。2泊3日で着いたその日半日だけおざなりな観光をして、あとは自由行動だから我慢はできる。
そこまでして社員で出かける意味はあるのか毎年疑問に思うのだが、サラリーマンは組織に巻かれてなんぼだ。
「宮崎っていえば、そうだよ!三田がいったのソコじゃねえ?」
向かいのデスクでパソコンを立ち上げていた佐伯がモニターごしに言う。
「おい、佐伯!」
隣からあわてたような山田の声が聞こえたが、そんなことはどうでもよかった。
「あいつ、宮崎にいるのか?」
「らしいよ。大学の友人を頼ってだかなんだかって聞いたような気がする。
なに、お前、あれっきり連絡とってないわけ?」
マウスをカチカチいわせながら、佐伯が言う。
「……まあな」
そうだったのか、そんな遠くに行ったのか。今朝みた夢のイライラが甦る。そんなところまで逃げるほどのことだったのか?
わかっている、追い込んだのは俺だ。その事実がイライラの原因だ。
「まあ、本当のとこはお前らの間のことだからさ、俺は何も言えないけど。
酔った勢いのおふざけかもしれないし、許してやってもいいんじゃないか?3年?4年?けっこうなるし」
おふざけじゃなかった。だからこんなことになったんだ。
「許すも何も、音信不通だし。もう昔のことだ。佐伯こそ、向こうに行ったら三田に会えばいい」
佐伯の言う通り昔のことだ。それなのに雨が降ると、夢をみる。
「会いたいって電話したって困るのは三田だろ?
なんだかんだいってあいつはいい奴だったしさ、何も会社辞めなくてもよかったのになって思ってさ」
佐伯は悪くない。でも自分の芯から湧きだす感情を抑えきれなかった。
「俺が悪いんだよ!大人げなく騒いだから」
「もういいだろう?三田だってむこうで元気にやってるよ。それに末次が悪いとか三田が悪いとかって、俺らだってそんなこと言ってるわけじゃないんだし」
少し慌てた山田が言葉を継ぐ。
「そうだよ、責めてるわけじゃないし深い意味もないぞ。お前の言う「昔のこと」だしな」
佐伯はそういって受話器をあげて取引先の番号を押した。山田もメールのチェックを始める。『この話は終わり。悪いなつまらないことを蒸し返して』そんな二人の無言を受け止めて、自分のパソコンを立ち上げる。
俺はいったい何をしたいんだ?どうしてこうもイラだつんだ?
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