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雨の先・・・そして 4

「末次正己・・・?あれ?正己?あの正己?」 就職活動の忍耐が認められて、第一希望じゃないとしてもそれなりの条件の会社に就職できた。採用は5名。いずれにしても3年は辛抱するぞと誓って入社した。 声をかけてきたのは同期の男らしい。 それに、俺のことを知っている・・・らしい。 「末次です。ええと?」 「三田だよ、三田敦。敦だって。転校するまでよく遊んでたよね」 ニッコリと人なつっこい笑顔を浮かべる顔をみて、小さい頃の記憶をひっぱりだす。 ミタアツシ・・・ミタ・・アツシ・・・アツシ 「もしかして!あっちゃん?」 あっちゃんと呼ばれて照れくさそうにしながら頷く相手を見て、小さい頃の時間が甦る。 「思ったより、正己は背が伸びたな。」 「ギリギリ170超え。俺もかなり不安な思春期を過ごしたよ。いつ成長が止まるかとおもってさ。あっちゃんは・・・」 そこまで言って照れくさくなる。20歳を超えた男同士でちゃんづけで呼ぶのはあまりに子供っぽい。 「あっちゃんなんて、ばあちゃんくらいだよ、俺のこと呼ぶの。」 「そうだよね、じゃあ三田にしておく。」 「俺は正己でいいよな。」 俺達二人の時間を埋めるのはあっという間だった。 フェスでキャンプをはり夜通し飲みながら沢山の話をした。 真っ白な雪と凛とした空気の中、競って滑り下りた。 ススキノで朝まで飲んだくれた。 互いの家でふざけ合い、まじめな話をして励ましあった。 慣れない社会人の悩みも達成感も共有した。 俺達は完璧な親友で同僚だった。 三田のいない生活は考えられなかったし、相手も同じ気持ちであることを疑ったこともなかった。 合コンに何度か出かけたが、正直彼女をつくるよりも三田と過ごすほうが面白そうだと思った。女友達は互いにいたが、彼女に発展することはなかった。 結果世の中のイベントは三田と二人で過ごすことが多くなったけれど、それに何の疑問も不満もなかった。 『正己、彼女つくったほうがいいんじゃね?なんだっけ、こないだの千穂ちゃんだっけ? あのこかわいかったし性格よさそうじゃん。がっついてないしさ』 『まあ、かわいいのはかわいいけど。』 『なに?なにか不満でもあるわけ?』 『いやさ~実際気をつかわないってとこじゃ、三田といるほうが楽だし。正直今女はいらないかなって』 『うわ、お前、それはまずいだろ・・・。』 『なんで?』 『なんでって・・・。』 こんなことが何度かあった。最期は決まって三田がそっぽを向いて会話は中途半端に終わる。 三田がいればいい・・・。 遠くで気がついてはいけない何かが生まれていそうな気がしたが、気のせいだと思えばそれまでだった。 そうやって俺たちは楽しく過ごせるはずだった。なのにあいつがダメにした・・・。 必要だと言わなくてもわかってくれる相手。 一緒に過ごそうと約束しなくても何故か一緒にいる相手。 時間も気持ちも互いに気にならない相手。 穏やかに流れる時間を共有できる相手。 俺はそれを失った。半分は三田が悪くて、残りの半分は俺が悪い。 何かが生まれてしまって、俺たちはいっさいを失った。 雨の日に目覚めて、いまだに答えが見つかっていないことを知る。 いっそうのこと気がついてしまったほうが楽だったんだろうか。 認めてしまったほうが前に進めていただろうか。 そうしていたら何かが変わっただろうか?どうなんだろうな、三田・・・。

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