49 / 64
雨の先・・・そして 5
おざなりの団体行動が終わって、佐伯と山田の3人でレンタカーを借りて海沿いを走っている。
山田が道の駅にある「エビソフトクリーム」を食べたいと言い張ったせいだ。
佐伯が「冷めたエビグラタンの味だな。話のネタにはなるだろうけど」と言い放った感想のおかげで、他の味(明日葉ソフトクリームってなんだ?)を試そうとしていた山田は諦め、海を眺めながら交代で運転している。
とにかく暑くて、車の外にいきたくなかったというのが本音だ。
「観光で来てるからいいけど、絶対住めないな、こんな暑いの。」
ただでさえ汗かきな佐伯がウンザリしたように言う。
「でもさ、こっちの人にしてみれば北海道の冬だって同じじゃないか?」
車の窓全開でドライブしたいという主張を佐伯によって却下された山田が反論する。
「山田・・・そうは言うけどさ、寒かったら着ればいいけど、暑いからって素っ裸で歩けないだろ?家の中はストーブで暖かいわけだし、北のほうがいい。」
「こっちだって、クーラーきいてんじゃん、アイコだろ?」
どうでもいい会話が窓の外の景色と一緒に流れる。いずれにしても休日らしい時間だ。
口数が少ない俺を気遣って、いつもよりよく話す二人にすまない気持ちもあるが、それを口にだすと余計なことが蒸し返されそうで黙っていた。
俺にかまわず三田に連絡をとればいいのにと思うが、それを言えば同じように面倒が持ちあがりそうだ。
結局俺は黙ることになり、二人はくだらない会話を続けることになる。
「それにしても海の色綺麗だな。」
何か言わなくちゃいけないと呟いたのに、車内は静かになって言葉だけが漂った。
「あのさあ。」
山田が言いにくそうに口をひらく。
「なんだよ。」
どうにもこの空気を作っている張本人な気がしていた俺は、ついついつっけんどんに言葉を返してしまった。イライラするのは自分だけで十分だというのに、なにも俺につきあって二人まで同調する必要はないのに・・・そう思うとますますイライラが増す。
「実は俺、やっぱりさ、地鶏とか食いたいじゃん。名物らしいし。」
何も言いにくそうに言う内容でもない・・・
「で?結論から言えよ。面倒くさいことは先に言え。」
佐伯はきっぱり言ってのける。ほんと、こういう性格になりたいものだ。
「それでさ、札幌でラーメン食べるなら地元の人間に聞けみたいなさ、あるじゃん。」
「だから・・・山田、さっさと言え。」
「わかったよ。それで行きたいと思う地鶏の店が本当にうまいのか聞いてみたら、そこじゃないほうがいいって教えてもらった。なので、そこには行かないことにした。」
この会話は佐伯にまかせて、俺は窓の外に見える海の青さを楽しむことにした。
「もったいぶっていうことじゃないだろ?まったく・・・で?ほかの店を教えてもらったんだな?」
「佐伯、えとさ。三田に・・・聞いてみたんだ。」
車中が静まり返る。空気が急に重さを得たように、息苦しささえ覚えた。
山田・・・お前がそういうことするかって話だ・・・。
そういうよけいなことをするのは佐伯だとばっかり思っていたのに。
「まさか、お前『一緒に飲もうぜ~』とか言ったんじゃないだろうな、三田に!
そんなことしたら、絶対末次はホテルにひきこもるぞ?そうなったら、すっきりたっぷり呑めやしない。コソコソ根回しするんなら、もうちょいスマートにできないのか?お前は!」
まったくだ。でも佐伯は俺を思ってというよりも、自分のことを優先している。
「いや、店聞いただけだよ。一緒になんて言ってないよ。そういうことするのは佐伯だと思って、俺は何もいってない。でも・・・」
「でも、なんだよ?山田。」
我慢できなくなって聞いてしまった。
「いや。末次・・・ゴメン。」
「ゴメンじゃなくて、で、なんだって話だ。」
「あ、その日は三田も街にでることになっているから、偶然見かけたら手ぐらい振ってくれって・・・そう言ってたって・・・話を俺はしたかっただけなんだ。ほんと、他意はない。」
「だとさ、手ぐらい振ってやれよ、末次。」
佐伯がそう言ったところで、この会話は終了になった。
ともだちにシェアしよう!