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雨の先・・・そして 14

「そうだな・・・。今までは後悔しか思いつかなかったよ、実際のところ。」 自分の存在が後悔と言われ、思ってた以上にショックを受けていた。 俺はずっと三田に腹をたてて、三田のせいだと思い続けてきた。 そうやって・・・そうじゃないとやっていけなかった・・・ 「でも、正巳の顔をみたらさ、俺が間違ってたって思い知ったよ。」 間違いって・・・なんだ?俺にキスしたことか?俺を好きになったことか?俺の存在がか? 三田は俺の顔をみて、やさしく笑った。頬杖をついていない左手がのびてくる。 前髪がぐしゃっとされて、また喉の奥が詰まったようになる。 「お前も俺も男だから・・・まあそこが問題だとずっと思ってたわけ。 だけど単純に誰かを好きになってうまくいかなかっただけじゃないか?ってさ。 相手を恨んだり、自分を卑下したりして思い出したくないとか後悔とか。そんなんじゃないよなって・・・。 正巳と一緒にいて俺は楽しかったんだなって・・なんかバカみたいだけどそう思ったら なんかどうでもよくなった。」 頬杖をつきながら視線をテーブルにおろした三田の顔は見慣れていたはずなのに、初めてみる顔みたいで、詰まった喉といっしょに目の奥が熱くなる。 なんなんだ、俺は・・・いったいどうしたかったんだ? どうすればよかった?それを教えてくれないか?三田・・・ 「おしえてくれないか?」 「ん?」 「あの時、俺はどうすればよかったんだ?」 三田はあきらめたような顔をしてグラスをあおる。 「マスターおかわり。」 空になったグラスに指をつっこんで丸い氷をグルグル回す。 「正巳・・・どうすればよかったんだ?じゃなくて、どうしたかったんだ?って話じゃないか?」 「・・・いや・・・だから。」 「正巳は俺と一緒にいて楽しかった。でも俺が楽しいと思うたぐいのものと質が違った。 しょうがないねって話だ。どうしたいって・・・正巳はオトモダチでいたかった。それだけじゃないか。」 じゃあ・・なんでこんなに俺はがんじがらめなんだ? グラスが運ばれてきて三田は軽く礼を言った後考え込む。 「正巳は納豆嫌いだろ?」 「お前なに言ってんの?」 人が真面目に話をしているのに、何いってんだ! 「なんで嫌い?」 「なんでって臭いからだ!味も変だ!」 笑いをかみ殺したように口元をゆがめた三田が言う。 「でもさ。正巳ブルーチーズは食うじゃん。」 「うまいじゃないか!」 「俺は納豆食えるけど、ブルーチーズは臭くて食えないぜ。」 「三田、酔っ払ったのかよ?なんの話してるんだよ・・・」 「俺は我慢させてまで、お前に納豆を食わせる気はなかったってことだ。 付け加えると・・・なんていうかな・・・ブルーチーズ味の納豆をつくりだすこともできなかってこと。」 「はあ?」 「ごめんな・・うまく言えなくて。郁ならうまいこと説明してくれそうなんだけど・・・」 また、あの人か・・・ 「沢田だっけ?あの人は納豆もチーズ味に変えられるのかよ。」 バカバカしい。 「どうかな・・・ただ。しょうがないってことを俺よりうまく正巳にいってくれそうだって思ってさ。」 「じゃあ、呼んでくれよ、ここに。それでわかるように俺に説明してくれないか? 三田、俺はずっとイライラしてる。何が悪かったのか、どこで間違ったのかって。 確かに何かが生まれてしまうような、気が付かなければそれまでの何かが俺の中にあったことは認めるよ。 でもなかったことにすればそれまでのレベルだ。なあ。あのままじゃダメだったのか? お前の横に楽しく居る俺は間違いだったのか?」 「だからさ・・・俺にとっては間違い。お前にとっては間違いじゃないっていう真逆の結論だよ。」 俺は必死だった。もうここから抜け出したい。 どこかあきらめの顔を浮かべる三田にどうにかしてもらうしか、俺は救われない。 「番号おしえて、俺がかける。」 携帯をとりだした俺をみて、三田は本当に疲れたような顔になった。 悪いがお前を気遣ってやれない。 なんでこんなに強迫観念じみた心情になるのかわからないけれど、とにかく必死だった。 「わかったよ・・・正巳。電話するから。」 「マスター。テーブルいい?郁もくるから。」 三田がそういうと、俺の前のグラスが店の隅の小さなテーブルに運ばれた。 三田は自分のグラスを持ってカウンターに背をむける席に座り、半ばあきれた顔で俺に言う。 「正巳、お前ほんとに頑固だな・・・。しょうがないって諦めるしか答えはないんだけどな。」 「なんだよ!三田がどうにかしてくれるって佐伯が言ったのに全然だから。 それにもう俺はイヤなんだよ。堂々巡りはもうたくさんなんだよ・・前に進みたいんだよ。」 ふっと遠い目をして呟く声。 「郁もそう言った。俺が困らせたとき。」 いきなり年上の男が座っているような錯覚に陥る。 困らせたって・・・今の俺みたいにか? 何も言えなかった・・・

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