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雨の先・・・そして 15

「遅くなってごめんなさい。静香さんがなかなか言うこときいてくれなくて。」 沢田って人はそういって椅子に座った。 とんでもないところに呼び出しをくらったのに、そこにいるのが当たり前のような姿で。 「んで?静香は?」 「マスターに頼んで静香さんの大好きなボトルを1本開けてもらった。 これが空くまでには戻るからって言ってきたから」 「まったく、静香は郁にベッタリだな・・・」 「沢田さんって、その静香さんと三田とどっちとつきあってるの?」 三田の顔が一気に赤くなる。・・・聞くまでもない・・・か 柔らかく微笑んだ沢田という男はきちんと言った。 「僕は敦とつきあってる。静香さんは最初に頼ってここに来たときから敦の面倒を見てきた人。」 さっき佐伯から聞かれたときとは違って、ストレートにかえってきた言葉に何も言えなくなる。 「さて末次さん。静香さんが押しかけてくる前に、僕が戻らないと敦もあなたも大変なことになりますよ? 敦を振った男だと知ったら、静香さんにたぶんひっぱたかれるだろうしね。 僕はなんで呼ばれたの?」 答え答え!と勢い込んでいた俺の気が一気に削がれた。この人になら・・・言える気がした。 「三田は・・・俺が納豆は食えないけどブルーチーズは大好きで。 三田はその逆だから、相容れなくてしょうがないって言うんですよ。 俺、ずっと、ずっとイライラしてて、三田の隣でずっと楽しかったのに、それが突然なくなって。 未だにそれに納得してなくて俺はどうすればよかったのかって。 三田はどうしたかったんだって言うし。 それに三田は俺達の欲しい形が違って、だからしょうがない。 「しょうがなかった」でいいじゃないかって言うけど、俺はそれが、わかんない・・・」 酔ってないと思っていたのは自分だけだったのかもしれない、そうとうシドロモドロだ。 いきなり呼び出されてこんなこと言われて・・・。なんだか申し訳なくなる。 沢田さん・・沢田。なんて呼んだらいいのだろう。 自分の説明不足が急に恥ずかしくなると小さいことが気になった。 「なんか正巳が気に病むのもおかしい話だろ?振られたのは俺なんだし。 しょうがないなら他に何があったんだって話だろ?実際のところさ。郁」 「しょうがないって・・・その言葉が悪いことにも使われるけど、いい意味で自分を救う言葉でもあるって、僕は思ってる。これもらうね。」 敦のグラスを一口口に含んでから、俺はまっすぐ見つめられた。

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