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椿の花が落ちる頃 二

「こんばんは。椿」 切れ長の目に綺麗な肌、薄い唇はやや口角が上がり、笑っている。 綺麗だけど、少し不気味…。 あんな話を聞いてからだとなおさらだ。 俺は正座をしたまま一礼して、男の側に寄る。 「緊張してるのかな?もっと顔をよく見せて」 男は俺の顎を長細い指で上に向かせる。 「へぇ…なかなかかわいい顔をしているね。まるで女の子みたいじゃないか」 「……ありがとうございます」 なんとなく目を合わせづらく、目をそらしてしまう。 「じゃあ、早速…」 そう言って男は俺を布団に押し倒し、着物をすぐに脱がせる。さきほどヤクザにつけられた痕がまだ残っていた。 「ごめんなさい…まだ痕が消えなくて…不快なら着物着たままでもいいし、なんなら他の子に変えても」 「いや、そんな痕はどうでもいい。大事なのは…」 俺の両足を外側へ開脚させる。 両ひざの外側がペタリと布団につくと、男は「ふむ…柔らかいな」とぼそりと呟く。 「あ、あの…」 「痛くはないかい?」 「え、別に痛くないけど…」 男は少し思案しながら、しばらくしてにこりと笑う。 「合格だ」 「は?」 ご、合格とは、一体何の話だろうと戸惑っていると、男はそのまま俺の胸の突起にしゃぶりつく。 「ん…っやっあぁ…」 歯を立てられたり、舌でなめられたり執拗な愛撫に思わず甘い声が漏れる。 「感度もいいらしいな…気に入った」 男はにやりと笑った。 「こちらの具合はどうだ?」 そう言いながら、椿の孔に指を一本入れる。 急に入れてきたため、「ひゃうっ!」と声をあげながら、お尻に力が入る。 「急にお尻の孔を締めてどうしたの?」 「そっちが急に…入れてきたっ、からだろ…!!んぅ…っ」 「あぁ…感じてるんだね…」 孔の中ので指が動く。 別の生き物が這い回ってるみたい。 「あ、あんた…こういうことしないんじゃ、なかったのかよ…」 「こういうことって…?ここにきたら、やることなんて一つじゃないか?」 「……っ嘘!」 俺は男の胸を突き飛ばし、体を起こして男をにらむ。 「他の子にはこんなことしてないって、聞いてるんだからなっ」 「へぇ…」 男は一瞬呆気にとられたが、すぐにまたニヤリと笑った。 「そうか…たまにしかここには来ないけど、もう噂になっているのか」 「あんたは、足だけ広げて、やらないって聞いてる」 「まぁ、そうだね。でも、君は私の好みだから」 男は俺の頬に手を添えて、ゆっくり口づけをする。 優しい口づけだった。 本物の恋人がするような、そんな口づけ。 恋なんてしたことがないけど、普通の女の人が恋をして、口づけをするときはこういうものなのかなと思った。 ここでは仮初めの恋しか許されない。 一晩だけだ。 いつだったか贔屓の旦那に本気になった同業の子が心中しようと迫ったが、叶わなかった。 その子はどうなったのか知らないが、まともには戻れないと思う。 舌が絡み合い、激しさを増す。 「んぅ…あ、むぅ…」 かすかに声をあげてみる。息をさせてくれない。 しばらく口づけをして解放される。口と口の間にねっとりと糸が繋がる。 頭の中がトロトロになったようにぼんやりする。 「ちなみに、ここで口づけするのも初めてだよ」 相変わらず男はにやついてて、なにを考えているのか分からなかった。 「私は君が好みだけど、君はそうじゃないらしいね」 ぎゅっと椿を抱き締めると、そのまま布団に横になる。 「今夜は冷える。人肌が恋しいから君を抱きながら休もう」 行灯の火を消し、男は目を閉じた。 外は他の店の明かりでまだ明るい。障子にチラチラと影が舞っている。 雪が降っているらしい。 初雪だ。 「なんか…疲れたな…」 俺は小さく呟きながら、男の腕の中で眠った。

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