3 / 14
第3話
年月を重ねた分薄汚れた暖簾を掲げた老舗で特上を2人前買ってきた吉良は、遅めの晩飯を食べ始めた。
テレビを観ながら8割ほど食べ終わった頃。うめき声が聞こえた。
「よお、気が付いたか?」
吉良が声を掛けると男は警戒心を露に吉良を睨んだ。
驚きと困惑。
感情に正直な眼差しに吉良は薄く笑う。
「あんた、誰だ?」
「俺は行き倒れていたお前さんを拾ったもの好きだよ」
言われ、男は自分の身体に施された治療に気付いた。
「頑丈な身体だな。骨は何処も折れていなかったぜ。その代わり打ち身は酷かったんでな、適当に処理しておいた」
「あんた、医者か?」
「俺が医者に見えるか?」
問われて男は答えに困った。
吉良は武道をやっていると一目で分かるほど鍛え上げられた体躯に無造作に伸ばされた癖のあるワンレンヘアー。厳つい顔には無精ひげある。
医者と言うよりも、ならず者と言った方がしっくりくる風体だ。
男が何を思っているか分かった吉良は喉の奥で笑った。
「人間45年も生きていると、いろんな事ができるようになるんだよ。それはそうと、内臓の方はどうだか分からん。ヤバそうなら救急車呼んで病院へ行けよ」
「それは…多分平気だ。空手で鍛えてきたから……」
「ふうん。心配ないならそれでいいけどよ。変な感じしたら言えよ」
素直に頷く男に吉良は買っておいたうな重を差し出した。
「食えそうか?」
「はい。あの……」
「何だ? 茶か?」
「いや、その…俺の服とパンツは……」
人間は盾の役割を持つ服を失うと委縮する。
見知らぬ人間の前で裸でいる事が不安な男は、そわそわと視線を彷徨わせた。
「血と泥で汚ねぇから洗濯機に放り込んだよ。後で洗ってやるから」
取り合えずこれでも巻いておけ――と吉良はタオルを投げ渡した。
ともだちにシェアしよう!