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第4話

 厄介事を拾った翌日。  開店準備をしていると、店の扉が荒々しく開かれた。  一見してチンピラだと分かる風体の若い男が五人。  真新しい喧嘩の痕が顔にある事から、聞かずとも要件の想像はついた。 「中学まで義務教育を受けたならcloseの意味くらい分かるだろ。まだ開店前だ。酒が飲みたければ他へ行きな」 「酒なんかどうでもいい。ここに全身黒ずくめの若い男がいるだろう!」  目を剥き出し怒鳴り散らす男へ視線を向ける事なく、カウンターの内側で吉良は開店準備を進める。 「ここは俺一人でやってんだ。他に人間はいねぇよ」 「嘘吐くんじゃねーよ。痛い目見たくなけりゃ、さっさと出せや!」  リーダーと思わしき男は身近にあった椅子を蹴り上げ、威嚇した。 「いないもんを出せと言われてもねぇ」 「いないって言うなら家探ししても問題ねーよな?」  カウンター内へ入るための扉に近付こうとする男を吉良は視線で制した。 「カウンターからこちら側は俺のテリトリーだ。入れる人間は選ぶ。力ずくで押し通ろうとする礼儀知らずは、実力を持って排除する」  数でまさる自分達を相手に、勝つ自信があると言ってのける吉良に苛立ち、男はカウンターテーブルを叩くが、その時初めてカウンター向こうで料理の下準備をしていた吉良の手に包丁が握られている事に気が付いた。  男の顔に僅かに警戒の色が浮かぶ。 「俺等がどこの組のもんか分かって言っているのか?」 「テメェ等のバックがどこかなんて知らねぇし、興味もねぇが、名乗りたかったら名乗れよ。但し、組の名前を出した時点でテメェ個人の喧嘩じゃなくなるって意味を理解してからにしろよ」 「そりゃあ、どういう意味だ?」 「分からなければ上の人間にでも聞いてこい」  吉良の落ち着き払った態度と言葉から同業者かもしれないと考えた男は、歯噛みしつつも一旦引く事を選んだ。 「一日猶予をやる。店が大事なら男を引き渡す準備をしておけ」  捨てセリフを吐き、立ち去ろうとする男を吉良は呼び止めた。 「おい」 「あぁ?」 「直していけ」  倒れた椅子を包丁で指示され、男は鼻を鳴らしそれを蹴とばすと、店から出て行った。

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