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第11話
一等地に建つ高級マンションを訪ねると、質素な服を着ていても婀娜 っぽい雰囲気が漂う女に出迎えられた。
「吉良さんいらっしゃい」
女の後に続いて室内に入ると、黒ずくめだった男は青いジャージに身を包み窓ガラスの拭き掃除をしていた。
「何やってんだ、お前……」
突如リビングに現れた吉良を見て、男は慌てて雑巾を背に隠した。
「こいつとさしで話さないといけねぇんだ。悪いけど……」
「いいわ。私はスポーツジムへ行くから、出て行くなら鍵はポストにでも入れておいて」
女は鍵を渡すとハンドバッグ1つで出て行った。
「そこに座れ」
吉良に言われ男は雑巾をバケツに掛け、ソファ側の床に正座するが、ソファに腰かけた吉良に隣に座るように促され、座り直した。
「それで、お前は何をやらかしたんだ?」
咎めるような吉良の眼差しから逃げるように男は目を伏せた。
「すいません。直ぐに出て行きます」
「そういう話をしているんじゃねぇよ」
「迷惑かけませんから……」
立ち上がろうとする男の腕を掴み、座らせる。
頑なに話そうとしない男に、別れ際言った言葉を思い出す。
「面倒と思ってたらここまで来ねぇよ。いいから話せ」
「でも……」
「俺が話せって言っているんだ。いいから話せ」
困ったように眉根を寄せ、躊躇いながらも男は重い口を開いた。
「住んでいたアパートが……放火された」
「放火? お前、一体何をやらかしたんだ?」
男は歯を食いしばり、頬を振るわせる。
痛みを耐えるように目を瞑り、振り絞るように声を発した。
「い…妹が、レイプされた」
吉良が相槌も打たずに聞いていると、男はぼそぼそと続きを話し出した。
「俺、妹に酷い事した奴らをぶっ飛ばしてやろうと、そいつらのたまり場へ行ったんだ。相手五人だったし、正面から行っても返り討ちにあうから、物陰に隠れて連中がバラけるの待ってたら、薬の話始めて……」
その先は聞かなくとも想像がついた。
「それで、ブツはどうした?」
「駅前のコインロッカーに隠した」
「そうか」
吉良は立ち上がると男の腕を掴んだ。
「取りに行くぞ」
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