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第2話
古風なカウベルが響き、店内の疎らな視線が入り口へ向かった。
「あら、いらっしゃい。早かったじゃない」
「ヒロさんとサトルさんもすぐ来るってさ。ソウさんは遅刻だ、ありゃ」
「お邪魔するよママ、奥いいかな」
「久しぶりだなあ、ママの顔見るの」
「あんたたち、いつも久しぶりじゃないの、薄情者!」
目を剥いたシオンに三人の年配男性は若々しく笑った。
「今日だったのか」
カズキは楽しげに口角を引き上げ、口の端に皺を寄せて入り口を振り返り、手を挙げた。
「お、カズキじゃねえか、今日は客か?」
「どうも、客です。相変わらずかっこいいっすね、コーイチさん」
「だろ?」
屈託無くカズキの手を弾き、地黒の顔をクシャクシャにして笑ったコーイチは、白髪混じりのアッシュグレーの無造作な髪が特徴のナイスミドルだった。細身の体に着古したライダースジャケットを纏い、白のワイシャツにデニムジーンズ、白のライディングシューズと年齢不詳の出で立ちだが、見たところ六十そこそこといったところか。
後ろに続く薄いグラデーションの眼鏡の男は、黒く刈った短髪に面長、ソフトなブラックレザーのスーツジャケットに、細身の革パン革靴といった長身の強面で、ナオトは少々怯んだ。
「レンさん、こいつナオト」
「や、初めまして、堅気ですよ」
鼻の下を伸ばして戯ける意外にもお茶目なそれに、ナオトは笑って挨拶を返した。
「ナオトくんていうの?」
最後の一人に名を呼ばれ、ナオトは愛想笑いの顔で返事を向けた。
「はい」
「カオルです」
「あ、どうも」
「かわいいなあ」
なぜか握手を求められ、ナオトは慌てた右手を伸ばし、丸っこく短い指で、キュッと握られた。照れ臭そうなタレ眉のゴマ塩ヒゲと、どこか情けないカオルのつぶらな瞳には、言い知れない愛嬌があった。
「じゃあ」
「はい」
ニコッと笑った無骨な卵形の顔に、ドキリと鼓動が鳴った。
身長は一七五センチほどか、ナオトと然程変わりなく、モンチッチ系の短い黒髪に、カジュアルスーツにワイシャツにスラックス、ソフトレザーの明るい革靴と、まるきり休日のおじさんの風情だが、小さな瞳の純粋そうな表情にナオトは心惹かれた。
三人連れはカウンターの奥のスツールに腰掛け、談笑を始めた。
「会ったことなかったんだな、ナオト」
「ないよ。なんなんだ?」
「毎年恒例なのよ」
曰く、年に一度、馴染みのメンバーでこの店に集まる異色の団体らしい。あと四人来るぞとカズキに耳打ちされて興味を引かれた。シオンママは、久しぶりの顔ぶれに付きっ切りで、楽しそうにおしゃべりしていた。
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